第22話 最終回 ひしゃたい

(被写体…撮影の対象となるもの。)



[Never ending Sex]



3年前



銀座のギャラリー、目的地到着。


「俺、後で見る…ミミ、先に見て来て?」


着いた途端に、ソワソワしだすテテ。


「……いいけど…後から来る?

僕、早く見たいから行っちゃうよ?」


「……うん。恥ずかしいから後から行く…」


…恥ずかしい…?

テテが恥ずかしがるのは相当な事…

写真、初めて人に見せる事は

撮る人からしたら恥ずかしいのか…

そんなあどけない挙動も可愛いと思うし

僕まで緊張してしまう。


「わかったよ。お母さんの写真見て、

テテの写真も探してくる…」



人は思ったより多くて

写真を眺める人達をすり抜けながら

テテの母親が撮った写真を見て進む。

自然の美しさ、色の強さが強烈だった。


進むに連れて

周りの人達の視線が僕へ…何となく感じた。


不思議に思いながらも進むと

写真を飾る雰囲気、壁紙が変わった。


都会の風景や空がいくつか並び、

続いて僕も見た事がある自然の中の風景が

いくつか並んでいた。

…テテが撮ってきた、見てきた、世界だ。

どちらもモノクロで

都会の写真は冷たく感じる。

…これじゃ…淋しさが伝わるのは気のせい?

テテの気持ちが…表れてそう。

何となく見た事がある、

公園だったり山だったりの写真は

モノクロでも温かい感じ。

更にその先へ進むと

景色の写真の倍以上の大きさ、

ポスターくらいの大きな写真は………僕だった。


僕がこっちを見て凄い笑顔で笑ってる。


テテにこんな緩んだ顔してるんだ…僕。



…これを1人で見せるとか、ズルイ。

泣くぞ。僕。1人で…


暫く自分の幸せそうな顔を見つめて、

この写真だけ下に題名がある事に気付く。


〔愛する息子の愛する被写体〕




「……こんにちわ」


「…えっあ、はい。こんにちわっ…」


「遠い所から…来てくれてありがとうございます」


「いえ…」


……多分…テテのお母さん…


「…今まで輝良の生活を見たくて

写真を頼んでいたの。

そしたら…凄く…いいでしょ?この写真」


「……いいですかね?

あ、いや、とても良いと思いますけど、

プロから…いや…お母さんから見ても…」


笑顔のお母さん…

目元がテテそっくりだ…


「凄くいい写真。

見る側にも伝わる…凄く幸せそう。

この写真、電車の窓で反射して…

輝良の笑ってる口元が写ってたの。

モノクロだと分かりづらいんだけど…

他の風景でも、

モノクロで冷たさとか温かさとか伝わるし、

この写真も凄く温かいから今回はモノクロに…」


「……一緒に過ごした時間が、

こうして写真に残っていて…見れるのって

幸せですけどっ…お母さんは、離れている時を

後から見て…感じて…どんな感じですか?!

好きな人と一緒に過ごさないで、

後から見てきた世界を知るのって…

どんな感じ…ですか…?

……僕は…耐えられるのかも…わからない……」


どうしていいか分からない感情、

いつも溢れないように抑えてた感情が

ふとしたきっかけによって蓋が開くと

自分では抑えきれない強さで溢れてくる。


出てきそうな涙はこんな自分にビックリして

出てくる気配は無いのに

心臓は身体を崩しそうな程早く動いてる。

…呼吸……息、も余り吸えない…


「……私にとってはこの手段が1番かなって…

離れて生活するしかないなら

後からでもその時の世界を感じたいって…

けど……輝良から聞いてるわよ。

…問題は輝良よね…

あの子を不幸にしてきた私の責任も…」


「母さんの責任じゃないよ。

俺が父さんと上手く生活出来なかっただけ。

…ミミ…?…泣いて…るか…」


テテがお母さんに話しながら近づき、

僕の肩に手を置くと顔を除き込んで来た。


「……泣いて、ないし…」


…目頭が熱を持つ。気配も無かった涙が

テテの顔を見たら出て来そうになっても

ギリギリで堪えた。




近くの飲食店で3人で夕食を食べ、

今回は写真展の為に来たって事もあって

テテのお母さんがホテルを取ってくれていた。


「おばあちゃん元気そうね。

今、2人ホテルに着いたって連絡しといたわ」


ホテルのロビー、

お母さんもここに泊まっているらしい。


「チイ婆ちゃん?元気だよ。

元気過ぎて動き回るからケガするけど」


「……おばあちゃん、

進路の事で悩んでるの気付いてたわよ?」


急に進路の話で固まる僕とテテ。


「……輝良、輝良のしたいようにしないと。

おばあちゃんの為って考えなら、

おばあちゃんが迷惑って言ってたわよ?

……それ程の事じゃないのよ…

老人ホームに入るのだって

おばあちゃん全然気にしてないみたいだし。

今の時代?凄く楽しそうな施設だし。

ただ、貴方の居場所が心配なだけで…

まぁ確かに年寄りの生活は心配だから?

血が繋がってなくても

私にとっては母親のように思ってるから

偶に会いに行くし…輝良が綺麗な写真とるから、

やっぱりあそこの自然を

撮りたくなっちゃったし…」


「……俺…毎日一緒って約束したから…」


「けど、いつまでとか決まってないでしょ?

大学の間とか仕事の都合でとか

その間は脱線したっていいわけでしょ?

貴方まだ子供なのよ?

先ずは自分の事、将来の事を考えなさい。

その為にしたい事をしなさい。

あと、自分らしい場所があるなら、

お友達とか大切な人がいるなら、

我慢して欲しくないの。大人に甘えなさい。

私でも、貴方の父親でも、おばあちゃんでも…

今まで私達大人のせいで我慢してきたんだから…」





曖昧な返事をして部屋へ向かうテテ。

彼の後ろをついて歩く。


…テテがしたいように…


家族がバラバラで、

自分の居場所が分からない時もあったんだろうな…

本当にテテはそういう事言わないし…


チイ婆ちゃんのあの家は居心地が良くて…

チイ婆ちゃんや僕、

みんながそれぞれを必要としてて…


あの場所から彼を引き離すのは、

酷…なのは分かるんだけど…



離れて暮らす事で我慢の方が多いなら、

僕はチイ婆ちゃんを犠牲にしても

テテと一緒にいたい。


テテが望んでくれるなら。



部屋へ入っても無言のまま、

テテはベットへ座った。近くでテテの様子を伺う。


「…疲れたね?なんか飲む?」


「んー…いらない………やっぱ水…」


冷蔵庫から水のボトルを渡す為に出し、

テテに差し出しながら話す。


「我慢、しなくていいって…」


…テテに自分の気持ちを言って欲しい。

言わない事が多いけど…大事な事なら余計に…


「甘えなさい、って言われてたじゃん…

僕にも…甘えてよ。我慢しないでよ。

テテが僕に東京行くなって言ったら

僕だって東京来てって言えるのに…

チイ婆ちゃんの事が気になるのはわかるから

僕だってどうにかしたいし…

一緒に……これからも…一緒にいようよ?

まわりに甘えようよ?

そしたら今までみたいにずっと一緒に…」


「…俺の性格だし…そんなに変われない…」


「変われなくないよ!

僕に自分の気持ちを言うだけだよ!

僕…言われなくても考えちゃう…

言われないと余計考えちゃうから

僕の為に言ってよ!甘えてよ!!

僕はテテが好きなんだから、甘えて欲しいんだよ!

お前…自分が言っても…無理って…

何も変わらないとか…

理解して貰えないとか…そう思ってない??

今までもそうやって…我慢して来たんだろ!

僕には我慢しないで!」


どうしても怒った口調になってしまうし、

僕、テテの頭上から攻めてるみたいだ。


受け取って貰えない水を握ったまま、

俯くテテを除き込んだ。


「……っ……どうせ……言っても変わらない……

今までだってそうだったし、

諦めた方がいい時の方が多かったっ…

父さんは頭固いし……

母さんには迷惑かけそうだし…」


「……変わるかもだよ?

お母さんも言ってたじゃん、甘えてって…」


テテが絞り出すような声、気持ちを絞り出してる。

僕も優しい口調に変わる…


「……怒ってるわけじゃないんだよ?

僕は…僕の気持ちを言ってるだけ…」


もう水はベットに軽く投げ、

両手でテテの顔を包む。


「……テテ…言って欲しい。甘えて欲しい。

……僕にだけでも。

そういう関係でしょ…?僕達…」


「………ミミには何度も言おうとした。

わかって貰えなくても、説得するっ…つもりで……

けどミミは先にわかってくれたから…

……ミミこそ、俺に言わないで…聞いて来ないで、

いろいろ我慢するくせにっ……っ…」


自分の足に肘をついた両手、

テテの両手の甲にポタポタと流れ落ちる涙。

流れ出てくる度に

僕が拭っても拭っても溢れてきて

手の甲、床の絨毯にもポタポタと落ちる。


「…我慢してないって言ったら嘘だけど、

テテが好きだからだよっ…

僕も沢山…何でも言うし…聞くから…

テテも…言って?ワガママでも何でも…」


テテの顔を両手で上向きにし、

僕の胸、洋服に涙が付いても気にならない…

逆に拭き取るくらいに強く抱きしめた。


「……ミミと東京で…2人で暮らしたい…

チイ婆ちゃんの所には時々帰って…

そのうちまた戻って…ミミと戻って暮らしたり…」


「……うん…そうしたい…そうしようね……」



ベットで2人転がり、

上・下…逆になりながらキスを交わす。


考え過ぎないように…

テテへ僕の不安が伝わって

これ以上心配しないように…


「…大丈夫だよ……テテの悩みは僕に言って…

これから…伝え合って、支え合って…

僕とテテは大丈夫だよ…」


「……ミミ…ホント好き…

…好きでしょうがない…愛しくてしょうがない…

これが、愛してるって…事なんだろうね…」


言葉に酔う。


大切な言葉ほど、必要な言葉ほど、

言葉が宙を舞って

受け止めきれない時もあるけど…


耳元で囁くテテを見つめると…

こちらに気付いて視線が絡むと、直ぐに重なる唇。



『愛してる』なんてそんな感情…

人を好きになったばかりの僕達は、

伝えるのも難しいし、言葉にするのもぎこちない。


重なる唇を貪る。

言葉が要らない時もあるよね…?


舌を絡め、強く吸い付き、奥へ押し込み、

2人の口の中がトロトロに混ざる。


テテの舌の動きにも犯されながら

いつの間にか洋服を脱がされていた。

僕もテテの服を急いで脱がす。


…急ぐ必要なんてないのに、

お互いの勢いは熱くぶつかるように

キスを繰り返し身体を重ねる。


ふと唇が離れ、

テテが自分の人差し指中指を加えて舐めた。


「……っ……」


少しずつ、…多分…中指…?

テテの長い指が僕の奥を探る。

刺激されても自分の声を堪える為に

テテの唇で塞ぐ。


僕の熱い吐息か、テテの漏れる息か…

酔った頭と息で逆上せた顔…


奥への強い刺激を知っている僕は

今にでも欲しくて堪らない。

痛みと引き換えにでも

奥の刺激に対する期待の方が大きい。


ずっと痛みがあったお尻も

沢山テテを受け入れて来たから

慣れ、痛みも消えていった。


いつもいつもEDが不安だったけど

不安じゃなくなった。

…症状が出た時があっても

僕がフォローすれば良い。



テテの上で感じる度に跳ねる僕の身体。

胸に伸ばされる指の刺激から逃げていると…

ぐるっと包み込まれ下にされる。

繋がったまま何度もキスを落とされ…

胸や脇腹、弱い所を撫でられる。

記憶が飛びそうな中、

腰を強く押さえつけられながら

奥を突かれて僕が達した後…

テテが可愛いく感じた表情になり

達したのを見届けた。








AM8:00



昨晩、裸にならずにsexした後

お互い布団の中でも服を着直し朝を迎えた。

まぁテテはいつも下は下着だけだけど。


「…お父さんに挨拶しに行こうよ…」


ケータイのアラームをテテが止め、

僕を起こしてくる。

服を着てるから両親が来ても大丈夫だと思い

安心してまだほぼ眠りの中にいる僕。


2人共、朝が弱いけど…

テテに起こして貰う方が多いかな…


「……んー…」


「なんか騒がしくない?朝ご飯食べてるのかな…」


休日でも7時には朝ご飯を食べ、

9時くらいには出かけてしまう。

その前に顔を見せる為、

身体をどうにか動かしリビングに向かった。


「…おかー様、おとー様、おはようござ…

なんで父さんと…母さんまでいるの?」


リビングへと続くドアを開けたテテの

後ろから中を覗くと、

両親同士、4人でテーブルを囲んでいた。


「あら。久しぶり!私は昨日帰国したばかりで…

この人は輝良に会いたくて来たんじゃない?」


「違う。なんで東京からわざわざ…」


「え?じゃあ私に会いに?

東京でも輝良に会えないって

ボヤいてたのは誰かしら…」


「まぁまぁ、亨ちゃんもサキちゃんも…」


「…父さんただいま…

亨ちゃん?サキちゃん?て…そんな仲…?」


「あ…お母さん達、みんなここで育ったし…

知り合いなの知らなかった?」


そんな話、聞いた事ないから知るはずも無い。


テテと目を合わせて首を振る。

…当然テテも知らなかったか。


テテのお母さんは

大学進学の時にテテが相談したから

僕達の仲を知っている。


…僕の両親に…話されてないだろうか…


そんな心配をしながら6人が集まるリビング。

朝ご飯のパンは、何の味もしなかった。



1番先に出かける父を見送る為に

玄関で2人きりになった。


「……なんか私の息子は疲れてるのか?

いつもの元気が無いぞ?」


「…あ、いつもの疲れが溜まってるのかな…

元気だよ。身体壊してないし」


「…そうか?

モデルだからって痩せ過ぎも良くないし…

お前は物事を考え過ぎる癖があるからな。

何かあったら言えよ?

父さんはいつでもお前の味方なんだから」


…両親にカミングアウト……した方が…?

イヤ、しない方が…両親の為でもある……


「…今は、多感な年齢だし…輝良君が近くにいて、

2人で力を合わせてるから

離れていても安心してるけど…

あーまぁ……色々悩みはあるかも知れないけど

悩みなんて持つのは当たり前なんだから。

…自分を枠に嵌めるなよ?

…よく男を好きな人はゲイとかバイとか…

好きな人が同性でも異性でも…

LGBTだとか…父さんはその枠でさえ

考えなくていいと思う…

まぁ差別的な人から自分達を守る為に

仲間を作る必要があるのかもしれないが…」


「……父さん…」


「…無理する事は無い。

別にお前が言いたい事を言いたい時に言えばいい。

世間にLGBTかと聞かれたら

'分からない'でもいいと思う。

だって分からないだろ?

変わるかも知れないし、そもそもそんな枠…

えっと…ただ、お父さんはお前達の味方だ。

教師何年やってると思ってるんだ。

何人もいろんな性格、考え方の子がいて

当たり前なんだ。…まぁ亨ちゃんの頭の固さは…

歳だししょうがないとして…」


「ふっ…、とーさーーん…

僕…朝から泣きそうだよー…」



本当に涙をどうにか堪えて、笑顔で見送った。


静かな玄関、後ろにテテの気配を感じる。

そっとテテが腕を回して来た。

…どこからか…話を聞かれていたらしい。


「……言わなくても…大丈夫みたい。

僕達…反対されたり…しないみたい。

そして、少し噂になってる事も…

僕達に対する風当たりも…」


「うん。'分からない'でもいいし、

言いたい事を言いたい時に言えばいいって…」


奥では母さん達の笑い声がする。


肩に乗せられたテテの顔を見つめると

反対側からテテの手が上がって来て

頭を包み、唇に引き寄せられた。



玄関先でのキスは初めてだ。


出会いの場所が

また違う思い出の場所になって

テテとの思い出が増えていく。




僕達の部屋に溢れる写真のように。





END



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WAVE けなこ @kenako

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