あなたが持っている一線を、私たちは、みんな信用している 下

 「さぁ~、買い物行くわよ!!アル!チャ子らを呼んで来て!!」

 「あぁ?」

 「あぁ~じゃないわよ!!」

 「私達が行ってくる!!」

 「そう?ならお願いね」

 外からミーシャの声が聞こえ、アルベルトが返し、ケイティが涙声で言葉にしているのが聞こえて来た。

 その声を聞きながら奥に進むアサト。


 「これで良かったんですか…ね……」

 アサトの言葉にメガネのブリッジを上げたクラウト。

 「非情にならなければならない時が来る…。だが、今日の判断は正しかったと思う…」

 「非情ですか……」


 アサトの言葉に振り返り、中へと進み出したクラウトの後ろ姿を見ていたアサトの傍に、アリッサが寄って来た。

 「そうね…。でも、クラウトが言いたいのは、アルさんの話しもあったし、今までのケイティの姿もあった…。考えて見れば、ケイティをあそこまで追い詰めた出来事は、想定外であると言う事で、私達は未熟だから判断が出来ない…。これから進む先では…」

 「仲間から追放する事を想定しなきゃならない…ってことですか…」

 「そうね。でも…、私は大丈夫だと思う」

 「大丈夫?」


 「うん…ありがとうアサト。あなたがリーダーで良かったと思う。あなたが持っているを、私たちは、みんな信用している。その一線を共有できるように、私達も頑張らなければって思う」

 「…そうですか…」

 アリッサを見たアサトは小さく俯いた。


 …ありがとう…か……。



 時間が過ぎ……て、夕刻。

 「おぉ~、いい匂いだ!!」

 「がはははは…」

 「腹減ったぁ~~」

 「すいません…メシ…俺が出来なくて!!」


 日が暮れ、王都に闇が覆い始めた頃に、タイロンを先頭にポドリアン、キャンディ、そして、キエフが診療所3階の生活スペースには戻って来た。


 「お揃いなんですか?」

 出迎えたアサト。

 「あぁ~、昨日で王都のソーラーパネル設置が終わってな。今日から馬車にエアコン?ってのを装着していたんだ」

 「エアコン?」

 「がはははは…あれはいいな。冬は暖かく、夏は涼しくって、どの家よりも快適だ!」

 「快適?それって…」

 「あぁ~、面倒な事はマスクメガネに訊いてくれ。なんでも古の遺物で、車とやらについていた物らしい…。ガスが無くなったら…って色々貰ったけど、パイプや何とかが壊れたら終わりだって…。あと電気を大量に消費するから、できれば緊急時以外は、使用しない方がいいみたいだ…」


 …うぅ~ん。


 大雑把な説明をしたタイロンが中に入り席に就き、ポドリアンがエールを煽り始め、キエフとキャンディが厨房に手伝いに入っている。

 今日は、馬車にエアコンを取り付ける作業をしていたようであり、よくよく話を聞くと、重いモノを取り付ける為に、キエフとキャンディに手伝いを依頼したようだ。


 …エアコンって……なに?。


 その後にシスティナらが帰って来て食事の準備を手伝い。

 バネッサが帰った事で、ジェンスは…相変わらずケイティにちょっかいを出して、チャ子とセラ、ケイティと格闘ごっこを始めている…と言っても、ジェンスが一方的にやられているんだけど…。


 ライザがそれを見て笑い、うるさいケイティらをアリッサが叱っている様子を、クラウトがメガネのブリッジを上げ、タイロンがポドリアンとエールを煽りながら大笑いをしていて、カップを手にして、すでに酔って寝ているクレアの姿がテーブルにある。

 サーシャの傍ではレアがご飯を食べており、チャ子を愛おしそうに見ているロマジニアに、テレニアはカルファと薬の瓶を見ながら話しをしていて、レニィがアサトの傍でデレデレ…、そのレニィの背後では、厨房の奥で火の柱があがり、キエフのフライパンさばきに瞬きが止まらないシスティナの姿…。

 ウルドとラニアはソファーで、肩と頭を合わせて、寄り添いながら寝ていた。


 …穏やかな雰囲気になった、なんか本当に、この国でやる事が無くなった気がする……。


 デレデレしているレニィの感覚を腕で感じながら、アサトは生活スペースを見渡して思っていた。


 外に聞こえる音と声を見上げている姿は、頭を掻きむしり、顔を撫でまわすと、大きなため息をついたロイドの姿であった。

 それからゆっくり振り返り進み出すと…。

 「おぃ…」

 診療所の扉が開くと声が聞こえ、立ち止まり振り返った。

 「…君か…」

 診療所から出て来たのは、冷ややかな目をしているアルベルトである。


 「…セナスティから話しを聞いた。君にも…」

 「あぁ?…ッチ、ったく…」

 ロイドの言葉を遮るように舌打ちをしたアルベルト。

 「…すまない…」

 「あぁ…。そう思うなら、。俺に一杯おごってくれ」

 「え?」

 アルベルトの言葉に小さく驚いた表情になったロイド。

 「…でも君は…」

 その言葉に診療所の3階へと視線を移した。


 「…あぁ…。あそこは俺にはうるさすぎる。どうせ王都へ来たんだ。摂政なら、いい店を知っているだろう?」

 冷ややかな視線を向けた先にいたロイドは、小さく笑みを見せた。

 「…そうか…。なら…南区にいい店がある」

 「当然、おごってくれるんだろう?」

 「あぁ…。俺からの礼も兼ねて」

 「ッチ、ったく、当たり前だ……」


 進み出したアルベルトを見たロイドは、一度カルファの診療所を見上げ、笑い声が聞こえ、壊れる何かの音に怒鳴り散らす女性の声が、聞こえて来ている明るく見える窓を見て笑みを見せてから、ゆっくり振り返りアルベルトの後を追い始め、その姿は、王都の街へと消えて行ったのであった……。



 それから数日後……


 「それじゃ、行ってきます……」


 ミーシャらに見送られたアサトらは、王都沿いを進んでカギエナの街に向かう林を通っている。

 馬車の屋根では、ケイティがキャラを銜えてご満悦の表情で、その姿にジェンスが声を張り上げている。


 …追放しなきゃならない時があるのかも……。


 2人の姿を見ながら、思っていたアサトの姿を見たケイティが何かを投げ、頭に当たったアサトはケイティへと視線を送った。

 「あげるよ!ヘタレ!!」

 「え?」

 足元には、小さな袋に入っているキャラの棒が見えており、その袋を拾って中を確認すると、手付かずのキャラが2個入っていた。


 「シキヨックンと食べな!!」

 「おい!!嵐が来るぞ!!」

 ジェンスがアサトに近づき、袋に入っているキャラ掴み、口へと放り込んだ。

 「あぁ?何?それどういう意味?」

 「貧乳姫が人にくれるだなんて!!それも…俺に!!」

 「あぁ?あんたはついでだよ!ついで!!」

 「ついで?」

 キャラを銜えながら首を傾げてアサトを見る。


 そのアサトはキャラから視線をケイティへと移し、視線があったケイティは頬を赤らめて小さく俯いた。

 「…ありがとね…アサト……」


 …え?


 「え?えぇ!!なんだおまえらどういう関係だ!なんだ!そのポって言う表情!!変だぞ!!なんか変だぞ!!こいつら…やったんか?」


 …え?


 「あぁ?」とケイティ。

 「こいつら出来ているぞ!!こいつらぁ~」とジェンス。

 「ちょっとジェンス!!」とアサト……。

 「こらあぁ!何言ってんだ色欲魔!!」


 馬車の周りを声を張り上げて回っているジェンスを、セラとシスティナ、アリッサが顔を出して見ており、タイロンは手綱を手にして、馬車の周りをうろうろしているジェンスに怒鳴り、クラウトはメガネのブリッジを上げている。

 馬車の屋根ではケイティが憤慨していて、アサトは……。


 …そうなんだ、これが僕らのチームで、信頼できる仲間。

 僕がしっかりして、みんなと『アブスゲルグ』へと行くんだ……。


 見上げた先の空は、林に樹勢している木々の間から高く見え、その高い空に誓っている姿があった……。

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遥かなるアブスゲルグ Ⅸ -後日談- ケイティ・ライザ・ロイドの誓い さすらいの物書き師 @takeman1207

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