第3話
雨の日は君と会えるから
3
「それでね〜!今日雨でもないのに多分あの人と会ったんだよ!!タイヨウくんと!!」
まさかの帰り道に『タイヨウくん』に出会った私は曇って、時折雨を降らす夜空をちらっと覗きながら明日も会えるかな、なんて考えながら陽菜と電話していた。
『ハイハイ。てか、なんでよりによってタイヨウくんなの...』
陽菜が少し飽きたかのように言った声が聞こえる。
「え?なんかタイヨウって呼んで悪いことある?雨の日の私を照らす太陽なのに。」
私は陽菜に所以を説明した。
『てか、もみじテンションおかしいよ!キャラ壊れてる!てか、太陽って、ひなのお兄ちゃんの名前なの!別にお兄ちゃんのことは嫌いじゃないけどなんかやじゃない?』
嫌いじゃないけど〜の所がやけに強調されてるように聞こえた。
多分陽菜はお兄ちゃんのこと好きなんだろうなぁと思いつつ話を聞いた。
「別に関係ないじゃーん。ねーてか、ひな。今週の日曜野球部オフ?遊ぼーよ。ゆきちゃんもおうかちゃんも暇らしいよー。」
私が話を変えようと遊ぼうと誘った。元々その話をする予定だったのだが。
『えーっとねー。あー暇ー!てか。みんなで家くる?そーゆーの何気に初じゃない?』
私たちに家に来てと誘う陽菜の声はとても楽しそうだった。
「あ!いいね!2人にも伝えとく?」
私はまたしても少し興奮して言った。
『明日、学校で話そ!多分いけるでしょー。』
しかし、翌日、桜花と優希のことを誘ったが優希は予定がある。と断ってしまった。
そして迎えた週末。
「おじゃましまーす。」
と、私と桜花の声が重なる。
昨日の夕方から下り坂だった空は今にも崩れそうな黒い雲におおわれている。
この季節の昼くらいにしては日がなく寒い。
「どーぞいらっしゃーい!」
陽菜の楽しそうな声に2人も気分が弾む。
「今日は親帰ってくるの遅めだし、兄も一日部活なので夕方まで遊ぼー!」
確か陽菜の兄、太陽さんも別の高校で野球部だったはず。見ためとか知らないけれど。
「なにするのー?」
桜花が陽菜に尋ねた。
「あー...まずそれから決めよか...あはは」
陽菜がギクッとした表情で言った。
「何も考えてないの...ひなっぽいちゃひなっぽい...」
私が言った。
「ねーてかさー、今日なんでゆきちゃん来ないの?」
今度は陽菜が桜花に尋ねた。
「えー普通に用事。って答えてけどー」
桜花は返事を濁した。
「けど何?まさか!!」
陽菜がハッとしたように言った。私もその時察した。
「いや。絶対じゃないんだけどね?彼氏できたみたい...ゆき。」
桜花が若干ためらうように言った。
察した通りのことで、私は驚いた。やっぱり優希に...
「え!おうかちゃん、ゆきちゃんの彼氏の名前とか知ってるの?」
私はつい尋ねてしまった。
「あー、いやー聞いてない...」
申し訳なさそうに言った。
「え〜羨ましいなぁー!ひなにもそんな出会いほしいー!彼氏欲しいー!」
陽菜の魂の叫びがもれた。
「もみじちゃんも例のタイヨウくんがいるしねー。ひなちゃんとうちも頑張らないとねー。」
「え!?いやそんなんじゃないよ!?全然!?」
私はついそんなことを言ってしまった。そんなことないわけないのに。
「なんかそれ前も聞いたってー。」
陽菜が笑いながら言った。
ふと見ると、いつの間にか外のアスファルトに大量の水滴が打ちつけられていた。
「あ、雨だ。」
私は最近、雨に敏感すぎだ。つい言ってしまった。
「うわ、ほんとだ...雨ならお兄ちゃん帰ってきちゃうかも...あ、2人は全然家に居ててもいいよ。多分あんま声とかかけてこないと思うから...」
陽菜が言った。
私は陽菜の兄の太陽さんてどんな人なんだろうとふと思った。
その時、家のドアが開いた。
うー濡れた。という男の声と共に恐らく陽菜の兄、太陽さんが帰ってきた。
陽菜は慌ててちょっと待ってて、と言い、部屋の外に出た。
雨に濡れた愛しの兄が帰ってきて心配なんだなと勝手に思い、桜花と駄弁っていた。
そして、足音がしたのでふと、顔を上げた。陽菜の後ろに通った太陽さん。その姿はまさに、今まで、雨の日に見たあの『タイヨウくん』のようだった。
私はつい、え!?と声を漏らしてしまったが桜花に不思議そうな顔をされただけで済んだ。
自己紹介したい、せめて顔だけでも見せて欲しい...と思ったが、私はふと思ってしまった。
10数年も一緒にいた陽菜に後ろ姿を見ただけの私が敵うはずないか...夢は夢のままで、雨が上がった後、虹がかかるとも地が固まるかも分からない。
それならせめて、この雨が上がるまでは雨に打たれておこう。
雨の日は君と会えるから 鵜坂 数 @neconecozzz
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