ゴー・アヘッド・プリーズ-テイク・デイ・オフ!【その3】
---録音再開---
ええ聞き返しました。3回は聞き返しました。
タケモリは私の顔を見て察したのでしょう。こう説明しました。
"日本では女のベッドにもぐりこみ、寝ているところを起こさないようにセックスをする。ブラッドレーともっと仲良くなりたい。私の嫁とセックスすれば貴方は私ともっと仲良くなれるだろう"。
ええ、ええ!やっぱりそうですよね。わたしもおかしいと思いました。
もちろん私は断りました。私にも愛する妻がいるわけですから。不貞をするわけにはいかない。
ですが彼は酔っぱらった私をタクシーに押し込み、運転手に彼の自宅まで運転させました。
社内でもタケモリはずっと私に喋りかけます。
"これは日本では合法だ"とか、
"嫁も合法だとわかっている。裁判を起こすとか考えなくていい"とか、
"遠慮なんて日本人みたいなことをするな、アメリカ人なら堂々としろ"とか。
ええ、わかっています。普通の日本人はそんなことはしないことくらいわかっています。勿論合法でないことも。
私たちは彼の家に到着しました。いや、駄目だったんです。彼の力は強く、私はあっという間に寝室に連れていかれました。
彼の言う通り、彼の妻はベッドの上で寝息をたてています。私を椅子に座らせ、
彼は"さあ、どうぞごゆっくり!"と言って寝室から去りました。遠くでドアが開いて閉まる音がしました。
私は頭を抱えました。初対面の女性・・・しかも同僚の妻が寝ている寝室にいるという状況を理解することができませんでした。
もしかすると、これはサプライズではないのかな、とも頭を掠めました。どこかにカメラが仕掛けてあって、私がベッドにもぐりこもうとした瞬間にタケモリと同僚たちが寝室に押しかけてくるのでは?と。試しにもぐりこむフリをしようとも思いましたが、それは私の妻に対する背信に違いなく、行うわけにはいきませんでした。
彼が去って10分、私は目が覚めました。私は何をしているんだ。さっさと彼を追えばよかったのではないか。とりあえず今日は帰ろう。帰って、明日きちんと彼と話し合おう。そう思いました。
彼の家を出てタクシーを止めました。自宅を運転手に伝え、財布からカードを取り出そうとした時です。
私の社員証がない。彼の家で落としただろうか。いや、私はパブに入る前からずっと財布をポケットに入れたままだ。最後にポケットから出したのはデスクの上でだ。そういえばタケモリの家の駐車場がおかしかった。来た時にはあったはずの車がなかった。
私はいいようのない不安に襲われました。額から嫌な汗が流れ出ました。私は無理と知りつつも運転手に速く走るよう伝えました。
30分後、私の家に着きました。タクシーから飛び出した私の耳に聞こえたのは妻の悲鳴でした。最悪なことが起こっていると確信しました。
それから、ですか?嫌だなあ。だいたいわかっているくせに。
私はタケモリを殺しました。ええ、3発。ベッドの下に入っていましたので。
ええ、そうですよ。"カンニンブクロノ、オガキレル"でした。
・・・・と、まあ。こんな感じです。楽しんでいただけましたか?
では、私はこれで。
(椅子を引く音)
・・・・あっ。
最後に後日談があるんですが、聞きますか?ええ。ありがとうございます。
刑務所の面会で、同僚のハンスに聞いたんですが。
タケモリは日本支部の人間ではなかったんです。
ええ。そういうことです。それでは。
(扉を閉める音)
---録音終了---
インタビュー 第七回 橋土井 紫 @hashidoi_yukari
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