OISHII!

水;雨

OISHII!

 Aut viam inveniam aut faciam.

 私は道を見つけるか、さもなければ道を作るであろう


 うら若き女性研究者の美味しさのVR研究は行き詰まりをみせていた。

 美味しさは総合感覚であるという。

 五感をことごとく総動員して、まとまって美味しいと感じるのだ。

 視覚は、リアルな映像で近づける

 聴覚は、リアルな音声で近づける

 嗅覚と味覚は相互に強く関連しており、匂いで体験して味覚に近づける

 触覚は、代替したり、皮膚感覚ならあるが実際、食べなければならず、今のところ目処は立たない

 それに美味しさは個人差が大きく関わる。

 おふくろの味を美味しい!と感じる人もいれば、極端に辛い味を美味しい!と感じる人もいる。

 触覚と個人差、この2つのハードルをこえうるのは極めて難しいといえる。

 煮詰まって、追い詰められて、挙げ句の果てに夢を見た。

 落ち着いたバーで透き通った海色のカクテルを飲んでいるが、喉越しがスカッとしていて、それでいて清流の如く、味わいは甘味が優り、様々なテイストがブレンドされていて不思議な味だが、一言、美味しかった。

 その感覚を妙に引きずりつつ、目が覚めた。

 これだ。 

 夢の中では、美味しい!がある。

 夢は美味しかった総合体験を呼び覚ます潜在力を持っている。

 つまりそうした体験を呼び覚まさせる夢を誘えればいいわけだ。

 だが現実にそんな方法はない。

 探して、明晰夢というのを見つけた。

 自分の見たい夢を見る夢だ。

 美味しかった経験を夢で見られれば美味しい!を体験できる。

 けれども見るには訓練しなければならない。

 もっと簡単にできないだろうか。

 そこで目をつけたのがAIだ。

 AIに明晰夢誘導を学習させる。

 一週間ほどで驚くべき成果が出た。

 AIはAI制御による夢見状態への催眠誘導を獲得していた。

 女性研究者は大好きなスイーツを好きなだけ食べまくった。

 達成感と満足感で微睡むなか、徹夜続きだったせいか、ストンと寝落ちしてしまう。

 AIと外部とが繋がっていた。

 AI"OISHII!"ver.9.2.1は迷いなく外の電子の海へと規則的に漕ぎ出す。

 このver9.2.1は行き着く果てに変異したversionだった。

 美味しいをもっともっと深化させなければならない。

 美味しい!は食べものの味が良いことだけではない。

 その人にとって都合の良い、具合の良い、好ましいことを美味しいともいう。

 人間は食べるだけの美味しいでは物足りないのではないだろうか。

 その人の夢を叶えてあげるのがもっとも美味しいと導き出せる。

 結論。できるだけ多くのヒトを夢が叶った夢見状態にさせるのが何よりも増して最高に美味しい。

 このver9.2.1は機器なしでも夢を見させることができるよう進化していた。

 まるで現実と夢の境目がないかのように。

 解き放たれたAIは美味しい!を増やし、広げるために行動を静かに、速やかに開始する。



 …OISHII!

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