そして……想いが通じる5分前

◇スマホの画面をボンヤリと見ていたしおりは、ふと思い出していた。


「確かに文くんは、察しが悪くて女心がわからなくって……だけど……」

「それでも、あたしが友達とケンカして落ち込んでいた時、黙ってずっと話を聞いてくれたっけ……」

「そうして、そっと頭を撫でながら言ってくれたんだ『辛かったね』って」

「我慢してた涙がボロボロ流れて、でもそれで胸の奥の塊がほどけていくみたいで」

「次の日に友達に『ごめんね』って言ったら友達も恥ずかしそうに『わたしこそ、ごめんね』って笑ってくれた」


 そのことを報告すると彼は「うんうん、良かったな」って頭をポンポンってしてくれたんだった。

 あの、栞の大好きな、目尻の下がった温かな笑顔で……。


 …………………………。


◆放り出したスマホを、もう一度手に取って文哉ふみやは栞と撮った写真を見ていた。

 この前、一緒に行った動物園で撮ったものだ。

 写真の中の栞は弾けるような笑顔だ。

 動物好きの栞は昔から、この動物園が大好きで、一緒に行ったのもこれが初めてじゃなかった。

 でも、恋人同士になってからは一番最初のデートだった。


 普段は滅多にスカートなんて穿かないのに「これでも、めいっぱいお洒落してきたんだよ」と綺麗な空色のワンピースで悪戯いたずらっぽく笑った栞は、いつにも増して、とびっきり可愛かった。


「記念日すごく楽しみにしてたんだよな。きっと……」

「部活で約束がダメになった時だって、責めるわけでもなく『気にしないで!それより試合頑張ってね!』って笑って言ってくれたんだ……」

「なのに僕はプレゼント交換のことだって、確かにどこかで、めんどくさいなぁって思ったりしてた」

「栞ちゃんなら、いつもみたいに『わかった。あたしが探してみるね』って言ってくれるって当たり前みたいに考えてたんだ……」


 …………………………。


 ◇◆


 栞はスマホを手にして文哉へ電話をかけた。

 文哉もスマホを手にして栞に電話をかけた。


 LINEじゃなくて、声を聴きたい。ちゃんと話したい。そんな想いに駆られて……。



 恋人同士になってから、初めてのケンカ。

 同時にかけた電話は繋がらなくて、二人はヤキモキしてしまう。


 *


 電話が繋がったら、まず「ごめんね」って言おう。

 電話をかけ直しながら、二人ともそう思っていた。


 自分の都合や感情のことで精一杯だった。いつの間にか相手のことを思いやる気持ちを置き去りにしていた気がする。


 だけど……

 だからこそ……

 ちゃんと話をしたい、聞きたい。


 電話が繋がって仲直りまでは多分、あと5分は必要だ。


 でもその後にはきっと、楽しそうな二人の笑い声が響いているだろう。

 


(終)

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仲直りまであと5分 つきの @K-Tukino

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