こんにちは。赤ちゃん。

雨世界

1 あなた(君)はどうして、泣いているの?

 こんにちは。赤ちゃん。


 プロローグ


 あなた(君)はどうして、泣いているの?


 本編


 生まれてきてくれてありがとう。

 私がママだよ。


 あなたを授かったときの気持ちを私はどう表現すればいいのだろう?


 それを考えるとすごく悩んでしまう。


 うまく表現することができない。


 本当に難しい問題だった。

 

 そんなときは、私はあなたに「あなたはどんな気持ちだった? 赤ちゃんができたって知ったときの気持ちって」とよく病院のベットの上で、あなたに質問をした。


 あなたは少し困った顔をしてから、「そりゃ嬉しかったけどさ、実際に命を授かっている君の気持ちには、多分、負けるのかもしれないね」と私に言った。

 本当はそんなこと全然思ってないと思うけど(負けず嫌いのあなたは、僕のほうがこの子のことを愛している、とか思っているに決まっているのだ)、妊娠している私の気持ちや感情を優先して、そう言ってくれているのだろうと思った。


 それが私にはよくわかった。


 あなたは優しい人だから。


 ねえ、どう思う? 赤ちゃん。


 私はこの人と結婚をして正解だったかな? まだあったことがないんだからそんなこと聞いてもわかんないよね。ううん。それ以前に正解なんてないのかもしれない。答えなんて誰にもわかんないよね。(きっとそうだ)


 でもさ、少なくとも、こうしてあなたと出会うことができたんだから、私の選択は正解だったよね。

 きっとそうだ。


 だって私はこんなにも、あなたのことを、愛しているから。


 あなたと、あなたのお父さんのことをすごくすごく愛しているから。


 だから正解。


 それでいいよね。


 私は生まれたばかりの赤ちゃんを抱きながら、そんなことを思っていた。


「どうしたの? 嬉しそうに笑っちゃってさ。なに考えているの?」とあなたは言った。


「秘密。教えてあげない」とにっこりと笑って私は言った。


 あなたが初めて泣いた日、私は号泣して、あなたのお父さんも、私のすぐ隣でわんわん泣いていた。(あんなに泣くの初めて見た。すごく驚いた)


 あの日のことは一生忘れられそうにもない。


 本当に、本当に嬉しかった。


 ありがとう。


 赤ちゃん。


 無事に生まれてきてくれて。


 本当に、本当にありがとうね。


「どうしたの? 涙ぐんで、なに考えているの?」と隣の席に座っているあなたは言った。

「ううん。なんでもない。ただあの子が生まれた日のことを思い出して、ちょっと泣きそうになっただけ」と私は強がりながら、あなたに言った。


「大袈裟だな。こんなおめでたい日に、そんな昔のことを思い出すなんてさ。あの子が聞いたら、きっと怒るよ」


「うん。たぶんね。すごく怒る」と私は言った。


 遠くでは綺麗なお姫様みたいなドレスを着たあの子が、あの子の最愛の人と一緒にたくさんの人たちから結婚の祝福を受けている。


 私がそんな、まるで夢の中のような光景をぼんやりとあなたの横で見ていると、あの子が私たちの視線に気がついて、こっちを向いて、幸せそう顔をして、私たちにゆっくりと手をふった。


 ばいばい。赤ちゃん。


 私の世界で一番愛している人。


 あの子に手を振りながら、私はついに、こらえきれずに泣いた。涙を我慢するなんて無理だった。


 こんにちは。赤ちゃん。 終わり

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