【風邪】罰【小麦粉】と【0】罰【1】

【闇】持ちとの接触から1週間が経った


今頃退院して俺の罪を打ち明け、解明し、対策を練っている頃だろうか


パイ生地を作り出し、風邪を付与する罪人として


字面からしたらなんてことないかもしれないが……風邪とはいえ、結果的に『毒状態』だ


パイ生地もまたクリームが乗ってない状態なので、小麦粉使いだとすぐに理解が至る


それ以上も以下もありうる想定はするかもしれないが、そこは相手の脳内妄想

俺が心配するほどではない


だが対策だけはしてくるはずなので、こちらもまた戦術を練らなくてはならない


戦えば戦うほど手をバラしてしまうのは、罪人としてのデメリットだ


故に潜む

故に隠れる


罪人の牢獄は日常生活にあるのかもしれない


だからといって殺し、生き延び、強くなってしまったら?


警察や自衛隊などでは70を超えた童貞処女老人でも太刀打ちできないだろう


50でも難しいところか?



仮に、俺たち“罪人“を研究している施設があるとしても、個人の性格を上書きするようなことは人道に対する罪となり、認めて貰えないだろう


となると、非公式だ────


不審な建物はいくつもある

四奈川区は山と海に挟まれた自然豊かな地区であり、すぐ山方向へ歩けば精神病棟がいくつも存在する


また、廃病棟になった施設もあり、そこを利用して実験など行っていても不思議はない


俺は4年間、パン屋の仕事が休みの時はよく山へ出かけ、施設を散策していた


ある場所は、雄叫びや悲鳴が連なる施設

ある場所は、一般市民が立ち入り禁止する施設


等々だが、稼働している精神病棟に用事は無いので廃病棟に目的を変更したのが最近だ


そして今日もまた廃病棟巡りをしている


衛星写真から見た光景を元に、不自然な山奥にある平地に当たっては砕け散り、また当たっては砕け散るの繰り返し


だが、成果もある

人が直前に出入りしていただろう痕跡があれば周辺を巡る


そのおかげか、獣道だけというのに人の足跡が分かるまでに能力を得た


罪人故か────元々の体質か


考えても仕方ないので後回しにし、廃病棟の施設を巡ること数日後の今


ついに不可解な廃病棟を見つけた




ここで焦ってはダメだと自分でも冷静さを取り戻し、目的を確認する


廃病棟にも関わらず稼働している、非公式だろう精神病棟にて、施設内を調査して俺たち“罪人“への対策をしているか────


漠然としすぎているが、俺個人が出来るのはこの程度だ


もっと人を集めれば調査範囲や資金への不安はなくなるが、それは願いすぎだ



何も無ければそれでいいのだ


一般市民が罪人を殺すことは無い


それでいい



稼働している精神病棟ならば受付に人がいたり、病棟内を急ぎ回る研究員がいたりするものだが


今回はそういった者が居なく

されど施設の奥から人の呻き声はしていた


「鬼が出るか…蛇が出るか…」





歩を進め、前進していく途中の複数の扉のうち、ひとつに目が止まった


鉄製の扉は中にいる異常者を固く閉ざすがごとく、頑丈に


あまりにも異常な扉につい目が止まり、食事を入れるためであろう蓋を取り、中を覗いた


「誰もいない…?」


そう思うも束の間、取った覗き穴よりも大きな黒の瞳が部屋の中を遮る


「う…っ!!」


叫びたくなる口を抑え、当たりを見渡す


誰もおらず安堵するも、扉の向こうから声が掛かる


「……あなたはだぁれ?」


扉の先にいる化け物は高めの声で、子供のような質問をしてきた


雄とも雌とも区別のつかない声に俺は、相手を刺激しないように答えた


「俺は…ここの新入りでさ、歩き回ってるうちにここに辿り着いたんだよ」


「……ふぅん」


黒い眼はそれから、こんな質問を返す


「あなたは──違うよね?だァれ?」


先程の質問に似てはいたが、雰囲気がまるで違った


ガリリと、爪が扉を引っ掻く音を立てたような、そんな音は正直に答えろと言わんばかりで俺を捲したてる


「君は…いや、いい……俺は自分を“罪人“だと自負している。根拠はないが、神に与えられた、罪を背負う人間のひとりだと思っている」


「……」


ガリガリガリと、爪の音が勢いを増す


答えが不十分のようだった


「だ、だからだな、俺みたいな罪人を殺す一般人が、研究する人間がいるか探っていたんだよ…まだ不十分か?」


ガリ…と、爪の音がそこで途絶えた


「うん……わかった……え?副音声?…ないよ、うん」


誰かと喋っているのかと思ったが、よく良く考えれば溶接された鉄の扉の中とはいえ、1訳では無い


その思考が巡った俺は入口に向けて逃げようとした


しかし、周りには施設の警備員と思われる厳重な装備を施した複数の男たちと、白衣を着、ガスマスクを装備した研究員が数人並んでいた


「被検体000に近づく者がいたとはな、溶接されてるだけあって目立ったのが幸いか」


と、1人の研究員が表情の見えないガスマスク越しに部下であるらしいもう1人の研究員に“準備を始めろ“と言った


「準備…?何する気だ?」


「動くな!喋ることも許さない!!」


厳重な装備をした警備員のリーダーらしき男が俺に銃口を向ける


男の持つアサルトライフルのM16A1の銃口は震え、人を殺すことを躊躇しているようにも見えた


「…」


俺は黙るも、思考する


政府非公認ならば正式な警備は雇えない

銃口の震えは殺しの素人か、または未遂者か

躊躇しているのは、殺した後による己の鬱の心配か…


まぁ準備とやらが終わるまで、俺は動かなかったが────…


「Alpha、準備終わりました」


「よし…被検体000、対象と何か話せ、世間話でも構わん」


対象とは俺の事だろうなと思いつつ、背後にある鉄の扉の向こう側の返事を待つ


「……ねぇ、あなたはどこに住んでるの?」


こちらの身辺を知りたいのか、そんな言葉が来た


俺は答える


「…ここら辺」


「??……死な川区?」


少しイントネーションに違和感があるのか、俺は首を傾げる


すると、研究員が答えた


「死なる者渡る川、三途の川をイメージした地区が今の四奈川区だ。名付けられたのは安土桃山時代だが、大正初期から不穏といわれたので漢字自体を変え、四奈川区と変更されたのだ」


ご立派な説明ありがとう研究員様よ


しかしそうなると、鉄扉の向こうにいる化け物は────


「そうだ、被検体000は安土桃山以前から生きている存在だ。我々が確保し、代々継いで研究していたのだよ」

「…馬鹿げてる、そんな話信じる奴がいるか?」

「では本人に聞くがいい」


素っ気なく返されたが、簡単に答えるのだろうか?


渋々だが、俺は化け物に質問をする


「ばけ…被検体さんは、いくつなんだ?」


「ゼロでいいよ…もう500からは数えてない」


数字なら適当に言える

俺は質問を具体的にした


「徳川の行列を見たか?」


「うん…最初と次の代だけど…」


家康見たんかよ…俺がおかしいのか?


「言っても信じないから…これあげる」


俺の後ろから、食事を通すための蓋が開き、山吹色の何かを渡される


そこから研究員たちの動揺が走る


「被検体000が物を渡した!?」

「あれは大判だ!身体検査した時には無かったぞ!?」

「警備員は待て!騒ぐな静かにしろ!」


研究員の男の1人が周りを鎮める中、俺は渡された物を見る


山吹色で、たしかに大きめの小判の形をしている

本物を見た事がないので大判なのかは理解できないが…


「??……実物見た事ない?」


「あ、あぁ悪い…一目見て純金なのか、理解出来ねぇし…」


「そう…でもそれしか長生きの証拠出せないよ…」


「いや、まだあるはずだ…長生きしている理由だ」


理由────それは俺たちのように罪人であれば、何らかの罪を背負い長生きをしているとも考えられる


「……もう、生きすぎて生きてる理由は、ないけど…死ねないから」


「話をずらすな、理由を聞きたい」


そう答えると、またもや研究員たちが騒ぐ


「被検体000に文句を言ったぞ!?」

「やはり対象はなにか特別な力があるのでは!?」

「お前ら煩いぞ!警備員も銃口を向けることを禁止する!」


警備員達は俺を警戒しているのか銃口を向けようとしたが、注意され、銃口を降ろす


「……理由…生まれた時から…人間じゃなかったから…」




有耶無耶な答えに俺は悩むも、化け物とは短時間での接触だ



────簡単に打ち解けるわけが無い


意を決し、俺の事情を打ち明ける

人がいる前ではなかなか恥ずかしいことだが…


「…俺は童貞だ、童貞だったとも言える」


童貞と打ち明けたのは20代の頃、女子高生に貶されたこと以来だろうか


ムカついたが、当時非力な俺は何もせずにそのまま去ってしまったが…


そんなことはどうでもいい、この現状をどう打破するかだ


俺は続ける


「改めて言うが、なんでか知らないが30歳を迎えたら“罪人“になってしまってな、罪を背負う羽目になった」


「さっきも言ってたね…でも、…それが世の理だから……僕の周りもそうだった」


化け物の言うことが昔なのか今なのか不明だが、一人称が僕っ子なのは理解出来た


「背負った罪の罰は明かせない…そこのチキン警備員に対策取られたくないからな」


「貴様っ────」


「待てと言っただろ!……2、続けろ」


2人────…俺は分かるが…もしやこの化け物も?


「久しぶりに人扱いされた気がする…口を滑らしたね、…香月研究員」


「…チッ!」


冷静だと思っていた男、香月は内心動揺していたようだ


騒ぎ立てる周りの研究員に感化されたか、焦りが答えになったようだ


「……ゼロは…人間なのか」


「うん…人の形はもう保てないけど、移動はできるから…」


移動はできる


つまり、ここの精神病棟兼研究施設がバレる可能性がある際はすぐに移動できる手段があるということ


「…俺のことは話しただろう、童貞打ち明けるの恥ずかしいんだぜ?」


「分からない…その気持ち…僕は、生まれた時から無かったから……」


無かったとは、生殖器のことだろうな

生まれ持った持病が原因、てとこだろうな





……病人くらい、罪を背負わなくてもいいと思うぜ、神様よ…


会話が途切れた俺は、状況を確認する


未だ銃口が震える警備員

こちらの様子を見ながらも、小声で論争する香月を除く研究員

静かに見守る香月研究員


三者三様とはこの事か、言い得て妙だった


「…ねぇ、おじさん」


「おじさんて歳じゃねぇ、まだ34だ」


「それ…おじさんって言われない?」


「よく言われるが、俺は聞こえてないフリする」


俺のスルースキルを聞いて、クスリと笑ったゼロは静かに願い事を告げる


「……僕はさ、外の世界が見たいんだ」


それは俺に対して初めての願望だった

そして、その言葉に香月を含む研究員たちも動揺した


「待て!それはならんぞ被検体000!」

「警備員!被検体000の能力値を下げろ!何をやっている急げ!!」


香月は言い、複数いた警備員達のうち2人は咄嗟に走り出した



こうして場には

研究員が香月含む3人

警備員が3人という状況になった


研究員1人につき、警備員1人が守る行動を取ってしまえば逃走は可能だ


だが────


「この状況なら俺は逃げれる…だがゼロは置いていけないな」


ゼロにだけ聴こえる小声で、そう伝える

ゼロは俺の言葉を聞いて静かではあったものの、ガリガリと爪音を立て始める


「…3秒数えて扉から離れて」


「あん??」


「この施設内…簡単な作りだから、僕を止める装置は簡単に把握してる。時間が無い…早く数えて」


俺はゼロに告げられたまま数字を数える


3……2……1……


「「0」」


俺は扉を横に離れる


すると、溶接された扉だけでなく横の壁まで破壊され、吹っ飛んだ


扉の反対側は窓付きの壁だが、それ諸共破壊し、外に排出された


“謎の施設から鉄塊が排出、付近の警察は原因を追求“


そんな新聞の見出しが頭をよぎると、ゼロと呼ばれた化け物が出てきた


最初にイメージしたのは黒いだった


獣のような毛深い指先が見え

角のないトナカイをイメージした物体をつけた頭部

肩から腹部は逆三角形で、猫背ながらも付いている筋肉は常人から逸脱していた

脚は……2本?元人間ならば当たり前かもしれないが、異常なくらい太い

足裏の長さはハンバーガー4個分くらいだろうか、しっかり地に付いていた


狭い牢屋にいた為だろうか、猫背になりながらも出て来たゼロは、頭部が天井スレスレまである体長だったが、気をつけの姿勢をしたら3mはゆうに超えるデカさなのは確かだった


改めて全体図を見て、俺は目付きを鋭くしながら警戒心を高めてしまった


「みんな、僕をそんな目で見てる…慣れたけど……初対面にはキツイかな…?」


「っ……、す、すまん…」


「謝らないで…事が終わったらおじさんから離れるから」


そう言って、警戒心MAXの警備員に向かうゼロ


「く、来るなぁぁぁあああ!!」


施設内に響く銃声はゼロの体に当たるも、貫通しなかった


「……ひどいよね、化け物だってさ」


「いや、一言も言ってないが…」


「分かるよ、…顔見たらそう言ってるって」


俺は警備員を見る

確かに恐怖と怯えが浮かんでいた


化け物扱いされても無理はないだろう


続いていた銃声は30の音と共に鳴り止んだ

弾切れだ、しかし、リロードはしなかったようで


「あ、あぁ!!クソっ!」


そのままアサルトライフルを捨て、逃げようとする


俺とゼロはそれを見届けた


「良かったのか?」


「…何が?」


「逃がして」


「僕みたいな…化け物を信じる人なんてあの人の周りにいる?」


「軽くトラウマレベルだからな、ゼロの図体」


「初めてあった人の中で……そんな素直なこと言ったの、おじさんが初めてだよ…」


「褒めるなよ」


「……皮肉って知ってる?」


「皮付き肉の事だろ?昨日食った」


「……もういいや、……他の人たちも僕を殺すの?」


ゼロはそう言いながら他の警備員と研究員を眺める


先程の警備員逃走を目撃し、なすすべないと分かったのだろう、お互い目を合わせているだけだった


香月含む研究員は何かを待っているかのように、じっと待っていた


「……?そうか、装置が起動するまで待っているんだね…ふっ!」


ゼロはトナカイ頭に手を突っ込むと、何かをまさぐるように手を動かし、黒いマイクロチップのようなものを摘出した


研究員たちはそれを見て焦り顔を浮かべる


「なんだそりゃ?」


「僕を止める装置みたいなもの……これが起動すると、普通の人間に戻ってしまうんだ…」


それはそれでいいと思うのだが…?

俺は安易な考えをするが、黒いマイクロチップが追跡機能を持っているとなれば、この場を逃げきれたとしても日を跨いで捕まる可能性があった


「う、うぐ……んむぅ、……っ!」


「何喘いでるんだよ?」


「少し待って……あぁ、これあげる」


ゼロは唸りながらも黒いマイクロチップを警備員に投付ける


起動します────

その言葉と同時に、マイクロチップを渡された警備員は、悲鳴をあげるともに服を残して液状化した


「ふぁっ!?」


「ああやって……僕の体内の筋肉や骨を液状化にして、持ち運びやすくするんだ…」


これはまずい、と俺は判断した


ゼロは死なないらしいから、液状でも耐えることは出来るが

罪人や、一般市民がマイクロチップを受けてしまえばただの液体となるだろう


罪人俺たちを殺す兵器────





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ユーモア書いてたら飽きたので打ち切ります


材料としては中々いい線いってると思うので、物書きさんはご自由に参考してください



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黒罰闇 黒煙草 @ONIMARU-kunituna

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