明晰夢 - You May (夢) Dream -

七紙野くに

明晰夢 - You May (夢) Dream -

 小さな駅の改札前。自動券売機が二台並ぶお馴染みの光景。其処に私はいた。コンサーバティブな制服でスカートはそう短くないが、やや寒い。手に息を吹きかけそうになったが毛糸の手袋を見て止めた。


 列車が着いた音だ。彼が階段を上ってきた。

「遅いじゃない」

「なんだ、またお前か、一人で帰れよ」

 いつもこんな調子だ。私はそこはかとなく想いを寄せているのだが、知ってか知らずか彼の態度は昔から変わらない。


「行くよ」

「何処へ?」

「いいから」

 鞄のない左手を掴み半ば強引に歩き出す。駅から少し離れた在り来たりな雑居ビル。その地下。教室の倍ほどある部屋に入っていく。


 先客が多い。豚や馬、オーバーオールの兎など、カジュアルな服装だ。人は私達だけか。あ、来た。迷い無く最前列中央に立ち、こちらを向いた人物が口を開く。

「皆さん、ようこそ」

 今時、縦縞の白いスーツ。まるで怪しいセミナーの講師か催眠商法の弁士だ。

「時間も迫っていますので早速、会場に飛びましょう」

 指をパチリと鳴らすと場面は都市のメインストリートへと移った。


「さぁ、楽しみましょう」

 縦縞が合図する。


 細い角材を組んだ簡易な台に小さな車輪が付いている。それに横たわった参加者達は道路を滑走し始めた。豚が走りながら紙の筒に火を付けた。子供用の打上花火を後ろへ水平発射している。


 落着きを求め、アスファルトに置かれたベンチを頼った。

「何が面白いんだ」

 彼は不満なようだ。

「退屈?」

 問い返したが答えはない。


 背後からパレードが通る。ベンチを避け二手に分かれ、また私達の前で合流する。中世の甲冑を匂わせる衣装を纏った人々は機械を背負っている。襞が際立つ原始的な空冷エンジンだ。

「戦争が始まるんだろ」

 彼が呟く。そうか、争いの世界になるのか。


「明日、一緒に登校しよう」

 意表を突く言葉に一瞬、間が空く。

「うん」

 街はオレンジに染まっていた。

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