マサオとの再会

 ミネは神社の階段を一段ずつ登った。足を乗せ、手の助けを借りながらやっと一段登りきる。たった五段の階段も八十五歳にとっては断崖絶壁に値した。神社まではシニアカーに乗ってなんとか来れたものの、階段はそうはいかない。


 ふーう、階段を登りきるとミネは一つ大きく息をついた。

 神社が小さくて助かった、そしてゆっくりと見上げる。ミネは改めて大きな楠木を確認した。何も変わってない、あの日あの時、正夫は確かにここにいた。




「ばあちゃん、おっきな木だねえ」

 ミネの腰くらいの背丈しかなかった正夫は首を90度曲げて、楠木を見上げていた。

「もう八百年も生きてるんだ。そりゃ大きいよお」

「僕も大きくなれるかな」

「そりゃなれるさ、いっぱい食べて、あっという間に大きくなって、ばあちゃんよりもおっきくなるよお」

「本当? ばあちゃんよりももっともっとおっきくなるの?」

「そうだよお、正夫がおっきくなったら、ばあちゃんのこと助けてな」

「うん、僕何があってもばあちゃんが困ってたら助けに飛んで来るからね」


 うんうん、頷きながら、ミネは正夫をそっと抱きしめた。そんな思い出を旅しながら、気づけばミネの目蓋まぶたは涙でいっぱいになっていた。その時、背後に何かの気配をミネは感じていた。


「ばあちゃん」

 若い男性の声だった、少しかすれている。

 ミネは振り返った。そして思わず声が漏れる、正夫、と。涙で視界がぼやける。

「正夫? 正夫なのかい?」

「ばあちゃんひさしぶり、元気だった?」

 ミネは声の主の元へかけよった、そしてその顔の両頬を両手で掴んだ。そして顔を近づける。

「正夫、会いたかったよ。こっちは元気に決まっとるよ、そっちこそ元気かい?」

「まあね、いろいろ大変だけど」

 男はばつが悪そうにうつむくと、地面の砂を足でこすった。

「私にゃ、どうしてもあんたが死んだなんて信じられんかったよ、今までどこ行っとった?」

「ごめんごめん、ばあちゃん。でもね、時間がないんだ、あれ、持って来てくれた?」

 ミネは大きくうなずいた。

「ほれ、銀行じゃ50万しかおろせないって話にならんから、もう通帳と印鑑、それと暗証番号書いた紙持って来よったから、全部持っていき。これはあんたのもんじゃ」

 男はにやりと笑みを浮かべた。

「ありがと、ばあちゃん。大好きだよ」

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