支払い完了
はあ、はあ、距離というのがこれほどもどかしく思ったことが今まであるだろうか。神社までなら今までもトレーニングがてら走ったことがある。最盛期なら十五分もかからない。
早く、早く、今こうしているうちにばあちゃんは詐欺の人物に金を渡しているかもしれない、なんとか食い止めなければ。
後少し、ここの角を曲がれば、神社に辿り着く。その時、一台の車がさっとよし子の横を通り過ぎた。黒のセダンと遮光ガラス、ナンバーまでは見られなかったが、明らかにこの場所に似つかわしくない車だった。
嫌な予感がした。よし子は神社の正面に立った。そして見つけた。
「ばあちゃん!」
ばあちゃんは楠木の前でうずくまり、泣いていた。階段を三つ飛ばしで登ると、よし子はミネの元へ駆けつけた。
「ばあちゃん、大丈夫? 怪我はない?」
ミネはただただうずくまり、ひたすらすすり泣くばかり。よし子は思った、遅かった、と。そしてふつふつと湧き上がる怒りはやがてよし子をその場に立たせると、新たな決意を導き出したのだった。
「ぜったいに許さない!」
よし子は全力で走り出した、理由は一つ。先ほど過ぎた、あの車だけを追いかける、そのためだ。
ただそんなよし子は気づいていなかった、ミネの動かすその口元に。
ミネはただただうずくまり、顔はしわくちゃ、頭を揺らす。口元震わせ鼻すすり、埋もれた目からは涙がこぼれる。
そしてかすかに動く口元は、こう呟いていたのだった。
正夫、ありがとう……あんたのおかげであたしはここまで生きて来れたんじゃ、楽しい思い出を本当にありがとう。
辺りは相変わらず蝉の鳴き声がうるさい。真夏の太陽はだいぶ高度を落とし、やっと暑さのピークも落ち着き始めた頃だった。
思えば今日は旧盆、地方によっては
辺りは蝉の大合唱、ただそんな蝉の鳴き声の中に、少し気の早い
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます