第3話 欺瞞の道化師は真実を語る
一機残された隊長機シュバルゼルは降伏の意思を示した。
剣を地面へと刺し込み、左手に持っていた長方形の盾を投棄した。
「俺の名はバーゼル・ブレイド。所属はハディラ防衛騎士団、階級は大尉だ」
名乗りを上げ、胸部装甲を開いて両手を上げている。
「部下の命は奪わないでくれ。殺すなら俺を殺せ」
破壊された
倒されたハルハレイスの搭乗員も自機から降りてバーゼルの元へと集う。皆、両手を頭の上に置き降伏の意思を示している。
「恭順の意思を示した貴官に感謝します。私達は貴方たちと戦争しに来たわけではありません」
実剣二本を鞘に納めたトリニティが話し始める。
「私達は人身売買に関わっている組織を追ってこのハディラへとやって来ました」
「人身売買だと。そんな輩は即刻憲兵隊に逮捕される。ハディラにそのような組織はない」
バーゼルはトリニティの言葉を否定した。
トリニティは更に反論する。
「建前上はそうなってますね。しかし、外国人に関してはその保護規定がない。違いますか?」
「確かに法律上の規定はない。しかし、国交が有る無しに関わらず人権上の規定が適用されるはずだ。人身売買や奴隷化は人として最も恥ずべき行為として禁じられている」
「そう。表向きは。しかし、現実はそうではない」
「有り得ない」
尚もトリニティの言葉を否定するバーゼル。
トリニティはコクピットを開きそのまま空中を浮遊しながら地上に降りた。今日はピエロの恰好ではなく、素顔で森林迷彩色の戦闘服を着ていた。
「さあバーゼルさん。貴方も降りてください。部下の方たちも楽な姿勢で」
トリニティの言葉でコクピットから降りてきたバーゼルだった。
「人身売買については未だ信じられないのだが、貴官は腕が立つし信頼できる人物のようだ。私の部下は誰も負傷していない」
「ありがとうございます。その信頼に応えるべく、真実をお話いたしましょう。私はトッシー・トリニティ。異世界に住む魔術師です」
「バーゼルだ」
二人は固く握手を交わした。
そしてトリニティは事の経緯を話し始めた。
別の時空、別の時間よりベルグリーズに呼び寄せたアイドルユニットが拉致未遂事件に巻き込まれた事。そして、その事件を解決すべく、異世界のアルマ帝国から小規模であるが部隊が派遣された事。事件に対し規模が大きい戦力が派遣された理由は、拉致未遂事件を起こした集団が異世界転移技術を盗み悪用している事実が判明したから。
「それは即ち、異世界から軍隊をそのまま転移できる技術なのです。大きな規模で使用すれば、簡単に一国を滅ぼすことができるでしょう」
「信じられない……。しかし、貴公のその
「ええ。そうです」
「我が帝国と異世界がつながる。即ち異世界の軍が、我が帝国を滅ぼすことがある。そういう事でしょうか?」
「そうです。逆に、他の国々を滅ぼすこともある。例えば、あなた方が異世界の軍と共謀し隣国へ侵攻する事も」
「そうか。可能性としては有るだろう」
「そう。可能性としては」
神妙な面持ちで見つめあうトリニティとバーゼルだった。そしてバーゼルの部下たちもその二人を見つめている。黒猫とミハルは鋼鉄人形に搭乗したまま周囲を警戒していた。
意を決した表情でバーゼルが口を開く。
「貴公の話は理解した。異世界の軍と共謀して周辺国を踏みにじるなど言語道断だ。ましてや、我が帝国を滅ぼそうなどと言う酔狂な輩は許すことなどできぬ」
バーゼルの言葉に4名の部下も頷いている。そして、トリニティが口を開く。
「例の人身売買組織に関しては私達の仲間が始末をつけました。しかし、その犯罪組織と繋がっている輩がこのハディラの中に蠢いています。ご注意を」
「わかっている。詳細はわからぬが、憲兵隊の一部とそ奴らを裏で操っている政府内のウジ虫だ」
「自浄作用を発揮されることを望みます」
「当然だ」
「では、私達はこれで失礼します」
恭しく礼をしたトリニティが宙へと舞い上がり、ゼクローザスの操縦席へと座る。そして敬礼をしてから扉を閉めた。
地中より黒い塊が浮上してきた。
それは直線的な形状をしているアルマ帝国の特殊巡洋艦ケイオンであった。
三機の鋼鉄人形はその上に立ち、そして彼らは地中へと沈んでいった。
「大尉殿。アレは……」
「異世界の技術と言う物だろう」
「この件を報告されるのですか?」
「当たり前だ。少尉。包み隠さず報告する。貴様も忘れぬよう詳細を書き留めておけ」
「了解しました」
その数時間後、バーゼル・ブレイド大尉以下5名の隊員と
その後、帝都ハディラ周辺で人身売買組織が活動する事は無くなったという。
荒野の決闘☆トリニティ出陣 暗黒星雲 @darknebula
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