第2話 戦闘開始

「ほほう。魔導騎士ベルムバンツェが5機。中央にいる黒いのが隊長機のシュバルゼル。他の4機はグレーでハルハレイスです」

「よく見えますね。私は視力が3.0ですが、そこまでは確認できない」

「遠視の魔法ですよ、コウ少尉。では周囲に隠遁の結界を張りますからその場を動かないでください」

「了解」

「わかったわ」


 その瞬間、彼らの周囲は淡い光に包まれた。

 おかげでハドムス帝国の魔導騎士ベルムバンツェの姿はぼんやりとしか確認できなくなった。


「こちらからは見えづらくなりますけれども、向こうからは一切見えなくなります。結界内に入った瞬間向こうも我々を視認できるようになります。もちろん、魔術カウンターも結界内でしか作動しません」

「なるほど。では結界の外にいる敵を狙撃しても?」

「それはご遠慮くださいミハル中尉。一人で全て片付けるおつもりですか? せっかくお借りできた鋼鉄人形なのですから、私にも活躍の機会をお与え下さい」

「それはつまり……基本的に貴方が主戦という事ですか?」

「ええ。適当に援護をお願いします。流石に五対一では勝ち目がありません」

「適当でよいのですか?」

「ええ勿論ですとも。ふふふ」


 自信満々なトリニティだった。

 彼は結界の正面に立つ。


 黒猫はそのすぐ後ろで左側。

 ミハルはやや後方で強弓を構えた。


 5機の魔導騎士ベルムバンツェが結界内に侵入してきた。

 その瞬間、ミハル中尉のゼクローザス・アーチャーが霊力をまとった黄金の矢を放つ。その矢は右端に位置していた魔導騎士ベルムバンツェハルハレイスの頭部を貫く。


 トリニティのゼクローザス・クベーラは踊るような優雅な動きで二本の剣を振り、ミハルが射抜いたハルハレイスの左脚と首を斬り落とした。


 ゼクローザスの剣は実体剣だが霊力を込めると淡く光り輝く。

 その剣は、使い手の霊力に比例して装甲貫徹能力が高くなる。トリニティはまさにアルマ帝国における上位ドールマスターに近い能力を発揮していた。


 突如出現した(かに見えた)敵機動兵器にいきなり奇襲されたハドムス帝国軍は動揺していた。残る4機は散開しつつ、距離を取ろうとする。


 トリニティのゼクローザス・クベーラは二本の剣を優雅に振りながら、そして自身は横に回転しながら距離を詰めていく。


 それに対し、隊長機のシュバルゼルとハルハレイスが1機立ち向かう。残りのハルハレイス2機は魔法の光弾を放って黒猫とミハル中尉をけん制した。


 黒猫はその光弾をしてかわし、トリニティに迫るハルハレイスに肉薄した。

 大型のメイスを装備していたハルハレイスがその業物メイスを振ろうと構えた瞬間に黒猫のハンマーがメイスに光る拳をぶつけた。


 メイスはその中央から砕け、そしてその衝撃でハルハレイスはメイスの柄を手放してしまう。

 トリニティは隊長機シュバルゼルに斬りかかると見せながらふわりと剣の軌道を変更してハルハレイスの左腕を切り落としていた。そしてもう一本の剣でシュバルゼルの眼球を狙う。


 流石隊長と言うべきか。

 シュバルゼルは剣でその突きをいなし、前進してその分厚い盾で打撃を加えようとする。しかし、トリニティは即時後退しておりその盾の打撃は空振りに終わる。


 メイスと左腕を失ったハルハレイスは、剣を抜こうと腰に吊るした剣の柄を掴もうとする。しかし、その顔面を黒猫のハンマーが打ち据える。


 ハルハレイスの頭部は見事に破砕し、そして頭部を失った魔導騎士ベルムバンツェはゆっくりと仰向けに倒れていった。


「信じられん。アディメス結晶の装甲をいとも簡単に破壊するとは!」


 隊長機が動揺している。

 それにお構いなく、トリニティは再びシュバルゼルを剣で突く。二本の剣で巧みに急所を狙うトリニティに対し、シュバルゼルは防戦一方となった。右側のハルハレイスはミハルへのけん制を止めシュバルゼルの援護に向かうだが、その瞬間ミハルの放つ黄金の矢がハルハレイスの盾に突き刺さった。そのハルハレイスもトリニティの斬撃で袈裟懸けに切り裂かれ倒れた。


 3機撃破された時点で隊長機は撤退の判断をした。

 機体に埋め込まれた魔術現出装置より魔力の光弾を連続して放ち始める。


 その光弾をひらりひらりと踊るようにかわしながら隊長機の後方へと回り込むトリニティ。それと同時に、左側に生き残っていたハルハレイスに黄金の矢が突き刺さり、黒猫のハンマーが放つ光る拳がその腹部を殴打する。

 

 内部破壊されたハルハレイスは白い煙を吹きながら仰向けに倒れた。


 残るは隊長機シュバルゼル1機。

 しかし、その機体はゼクローザス3機に包囲されていた。


 

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