第32話 それぞれのあり方
「「リディア話があるんだ?」」
兄ズから呼び止められたので、部屋に向かおうとしていた足を止める。
「俺の事はヴァイスって呼んでっていってるだろ」
今だにリディアと呼んで来るのはこの2人だけなので、少し苛ついてしまい、声に力がはいる。
「ごめんね。でも…」
「「僕らにとってはリディアはリディアだから」」
レオ兄様形だけの謝罪をしてくれるが、シオ兄様は開き直り、ケロッとしている。
「話って何?」
何を言っても無駄だろう。俺が折れるしかないな。外で気をつけてくれればもう何でもいいや。
「この間の事なんだけど…その、ね。」
「?」
「じれったいな! 僕が言ってやるよ。僕達はリディアが無事なら誰を犠牲にしてもいいと思ってる。ツバキちゃんを妹とは認めないし、守るのもリディアだけだ。」
「シオ! 言い方があるでしょ。僕等が認めちゃったらリディアが居なくなってしまいそうだから…。だから、僕等は認められないし、認めるわけには行かないだけだよ。でも友達を犠牲にはリディアも嫌だと思うから、何かあったら頼ってね。そう言いたかっただけ」
シオ兄様は何言っているんだと思ったがレオ兄様の話を、聞いて納得した。確かに、誰か1人でも俺をリディアと呼ぶ人がいなかったら俺はリディアだった事も忘れふらっと出ていくだろう。もちろんフラグは叩き折ってからだけど。俺の兄はそんな俺の心を見すかしていたのだろう。
「それじゃぁ、僕等意外にも何か言いたそうな人が、いるから退散するね」
レオ兄様はシオ兄様を引っ張ってどこかに行ってしまう。どこに他に人がいるのだろう。周りをキョロキョロすると、壁の方からじーっと見てくる。2人がいた。
「マリ! フィラ!」
「お、おぅ」
俺の声に、マリは返事をしてくるのだが、フィラはもじもじとしている。
「なんかよ…悪かったな」
「え?」
「許さないっていって…ごめん」
「俺達あの後ツバキに怒られてよ。お友達をいじめるなんて、お兄ちゃん達ひどいって…だからその…言いすぎてごめん」
なるほど、そこは妹が強いんだな。まぁ、あんな可愛いツバキから怒られたら誰でもメロメロだよな。
「俺こそごめんな。急にいろいろ言われて分けわかんなかったよな」
そもそも、2人が謝ることはないと思う。誰だって妹に危害を加えられるってなったら嫌だろうし、守らなきゃって思うだろう。
「俺らよ。ヴァイスには感謝してるんだ。こんなところで働けてよ。でもよ、やっぱりツバキが危ないってなったらなんとしてでも守ると思う…ごめんな」
「僕等は、君の兄と逆で、ツバキが大事」
「おう! それでいいんじゃないか」
俺がケロッとしてそう答えると、2人は驚いたような顔をしていた。
「いいのか? 一応主人なんだろ」
あーそっか。こっちも主人は俺って習ってるのか。敬語じゃないから忘れてたけど、別に俺は従者が欲しいわけではない。
「いや、別に主人と思わなくていいよ。今までと同じでいい」
「そうか」
「そう」
ここに来て2人の笑顔をはじめてみた気がする。あそこでお世話になってた時も、朝から出て夜中に帰ってくるし、俺がルイに誘拐とか言ったせいでちょっと避けられてたし。俺はそんな2人に嬉しくなった。
「はーい! そこまでだよ! 油売ってる暇あったら仕事にいく~」
後ろから急に声をかけられた。声が聞こえた方に、振り向く。
「ルイ兄ちゃん」
「ルイ
「ルイ!」
「全く、油断も空きもないんだから。ほら2人はツバキのとこ行くよ~。あ、ヴァイスは部屋にいてね。後からお茶入れてあげるから」
そう言ってルイは2人を連れて行く。なんだか騒がしい日常に思わず笑ってしまう。
最初にこの世界に来たときは、嬉しかった。が、すぐに絶望した。だって破滅だものな。待っているのは。しかし、皆に出会い変わった。
明日はツバキと作戦会議だし、可愛いもふもふシュヴァもついている。ルイは変なやつだけど頼もしいし、家族は愛してくれる。ドワじぃは武器を作ってくれる。
俺はこの乙女ゲームの世界も悪くないかもと思い始めていた。もちろん破滅フラグは回避しなきゃだけど、皆と一緒なら乗り越えられる気がする。
この世界を自覚してそろそろ1年…。俺はこの世界で生きていく。とりあえずはヴァイスとして、男として生きていく。
────2章に続く。
異世界転生だと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢でした。 水無月 あざみ @Echinops06
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