あいたいひと

嘉田 まりこ

あたたかなクリスマス

今年は暖冬らしい。

らしい、というか間違いない。

気温は下がり朝露は凍るようになったし、吐く息は白く指先も冷える。

けれどそれだけ。

目覚めてすぐも部屋につんとした寒さはないし、カーテンを開けて気付く真っ白な世界もまだ訪れていない。

飛んで行けなかった茶色い落ち葉が、張った薄氷の下に、標本のように残されている。


『今年は秋と冬の間に季節があるみたいだよな』


何年か前も暖冬だった。

その時、私の隣にいたあの人は、その季節に私の名前を付けた 。


『春、夏、秋、あゆ、冬、だな!』


私は初めて呼ばれた下の名前に顔がゆるんだけれど、気付かれたくなくて口元をマフラーで咄嗟に隠した。


あき・ふゆの外側繋げただけだし。

語彙力がないじゃん。

と、バカにしてみせたっけ。


ずっと同じ土地で過ごしてきた。

春の匂いも、夏の音も、秋の色も、冬の長さも全部全部、共通の感覚でいた二人。


待ち合わせと言ったら白花公園で、寄り道と言ったら決まって駅前のマックだった。

散歩するなら川沿いを真っ直ぐ、勉強するなら地域解放している大学図書館。

車走らせ初めて行ったのは、見渡す限り一面に広がったラベンダー畑。二度めはまだ風の冷たい海。それから、それから。


毎日が楽しくて、喧嘩しても結局は元通り。

あの頃の私は、きっと彼も、ずっとこのままずーっと変わらずに過ごしていけると思ってた。


何度めかのクリスマス、ううん、七度めのクリスマス。忘れもしない、三年前のクリスマス。


『転勤決まった。ついてきてくれないかな』


行き先は東京だった。

二回しか行ったことのない東京に、躊躇してしまった。

彼のことをあんまり好きじゃないとか、そんなことは全くなくて、友達もみんな、私が付いていくと疑わなかった。


けれど、不安になってしまったの。

新しい仕事が見つかるかなとか、どんな人がいてどんな景色なんだろうとか。


好きだけど、大好きだけど、離れたくなんかなかったけれど、プロポーズとも取れる彼の言葉に『遠距離がんばれないかな?』と返事してしまった。


またいつか会えますか。

とおりに似た人を見つけると、

りゆうなく振り返ってしまいます。

くりすますになると必ず、

れんらくが来るんじゃないかと思います。

あえるんじゃないかと思ってしまいます。


しつこく待っているわけじゃないよ。

でも、いつかまた会いたいと思っている人は他のだれでもなく、あなたです。


その時には、今日の日までの積もる話をたくさんしようね。

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