第0話(2)
マーガレットが服を着替え、城門前に行くとフェイはそこに立っていた。
フェイの服はとても楽そうな服を着ていた。
「フェイさん、これで大丈夫ですよね?」
マーガレットはそう言い、ゆっくりとフェイの元へ近付いた。
「ああ、大丈夫です。マーガレット様、槍は持たれましたか?」
「はい、勿論です。ちゃんと持っています。」
「では、参りましょう。……城下町では騒ぎが大きくなるかも知れません。裏道を通ってから行きましょう」
「はい、フェイさん!」
城門の近くに、小道があり、そこから城の外へ出られるのだ。
昔、ノールオリゾン国とシュヴァルツ王国が最初に戦い終わった時、この道から母達は出たと言っている。
暫くすると、城の外に出られた。
だが、出られたのは良いが、肝心の何処へ行くのかが分からないと来た。
アザレアの事だ、そう遠くへは行ってないだろう。
「何処へ行ったのでしょう、アザレア……」
姉として心配し過ぎて泣きそうだった。
その様子を見たフェイは、そっとマーガレットを見据える。
ああ、その表情は母上であるエレンにそっくりだ。
昔の恋心は遠くに忘れたが、その表情のせいで微かに思い出す。
あの頃は、まだ近くでエレンを守ってやれていたのに――と。
「まずは隣の町まで向かいましょう。何か、手がかりがあるかもしれません」
「そうですね、分かりました。隣町……ゲベート村へですよね。参りましょう」
マーガレット一行は祈りの町・ゲベート村へと向かった。
ゲベート村とは、古代から続く宗教の聖地である。
十五年前まで、主流の宗教は天使教という新しいものだったが、王女・エレンがシュヴァルツ王国を再建して以降、天使教は衰退の一途を辿り、ついに滅びた。
そして、今は、精霊教という古代の教えが少しずつ人気を取り戻しているのだ。
その聖地らしく、ここは精霊様を祭っているという。
町に入るや否や、とても神々しい雰囲気にマーガレットもフェイも息苦しくなった。
「さて、色んな人に聞いてみましょう」
「はい、フェイさん」
と言うことで、マーガレット達はどんどん村人に聞いてみる事にした。
しかし、村の人は王子の情報は知らないようであった。
このゲベート村には、手がかりはないに等しいのだろうか。
諦めかけた時だった。
フェイが精霊教の神官を強く問いただしている。
神官は、この奥の祭壇にアザレア王子が向かったと証言した。
「フェイさん、この先にアザレアがいるのですね……」
「ああ。神官、悪いが、入らせて頂く」
神官の強い制止も聞かず、二人は奥へ向かった。
祭壇に着くと、驚きの光景がマーガレットの目に映る。
「アザレア!」
「ねえ、さん……」
アザレアは黒い霧のようなものに体を包まれていた。
とても苦しそうで、姉を呼ぶだけでも精一杯だった。
「ふーん、邪魔が入ったねえ。どうする?」
「どうするって、クロエちゃんが決めてね。俺はレディーファーストなの」
「うっせー、こういう時だけレディーファースト使うな」
男と女の声が聞こえる。
もしかすると、アザレアを苦しめている犯人なのかもしれない。
「おーっと、騎士さん。俺達は戦うつもりもありませんよ」
「そうそう、アザレア王子にはある儀式を受けてもらってるんだ。すぐ終わるよ」
そして女の言葉通り、黒い霧はなくなり、アザレアは解放された。
マーガレットとフェイは、すぐにアザレアに駆け寄る。
「姉さん、フェイさん、困らせてごめん。僕は大丈夫だから。さあ、王都へ帰ろう」
三人は、お城へ帰ってきた。
すると、王女で母であるエレンが駆け寄り、アザレアとマーガレットを抱きしめる。
そして、何があったのかと、エレンはアザレアに問う。
「母上、僕はどうやら精霊教の力を持った能力者のようです」
精霊教、それは一体何なのか。
まだ、それを知る由もない。そう、まだ――
黒王国物語 -マーガレット編- 桃月あさ @momodukiasa1203
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