黒王国物語 -マーガレット編-
桃月あさ
第0話(1)
十五年前、エレン達シュヴァルツ王国は北の大国――ノールオリゾン国に勝利し、領地を奪い返した。
これにて、一件落着、世界に平和が訪れたと思っていた。
だが、世界はそう甘く、平和を捧げる訳ではなかった。
ノールオリゾン国の残党が集まり出来た集団・北十字星軍。
彼らは、いつの日か、ハワード・フェルナンドが築き上げた国を、復活させたいと思っていた。
これは、エレンの娘・マーガレットが、北十字星軍と戦った記録である。
とある朝。シュヴァルツ王国第一姫のマーガレットは、まだ熟睡していた。夢でも見ているのだろうか、まだ起きる気配はない。
そこに、家事奉公人のモニカがやって来て、マーガレットの体を揺する。
「マーガレット姫様、起きて下さい。父・ダニエル様がお呼びですよ」
「えっ、パパがです?」
と、モニカの声ではっと目が覚めた。
「はい。とても険しい顔をしておられました」
マーがレトの父・ダニエルは、とても優しく勉強が出来て、マーガレットの自慢の父だった。過去、悪名が高かったとはいうが、そんな隙など一切見せない所、それは嘘だとマーガレットは思っている。
「今すぐ、パパの所へ行かなくては、です!」
そのダニエルが険しい顔をしているとなると、どうやら何かしでかしてしまったのだろうか。マーガレットはダニエルの元へ向かった。
「お父様!」
マーガレットは、急いで父の元へ向かった。すると、モニカが言ったとおり、父・ダニエルは険しい顔をして、マーガレットを待っていた。
「あの……、お父様、もしかして、歴史の授業で寝ていたこと怒ってらっしゃいますか?」
「え、マーガレット、授業中寝ていたのかい?」
「え、あ、その……。」
「いや、そんな事よりも……、マーガレット、アザレアの事を知らないかい?」
アザレア――マーガレットの双子の弟の事である。
マーガレットも悪くはないが、アザレアは成績も良く、クールで一切の隙も見せないような男で、次期国王として将来を期待されている王子である。
「えっ、知らないですが……?」
「そうか。マーガレットの所にも行ってないんだね。困ったなあ……」
「お父様、アザレア、どうかされたのですか?」
マーガレットが父にそう聞くと、ダニエルは応じた。
「うん。実は、アザレアが行方不明なんだ……」
「えっ、行方不明?」
「しかも、アザレアに関わっている騎士に聞いてみても、どうやって城を抜け出したか分からないんだ……」
困った事になってしまったようだ。
マーガレットの弟・アザレアが行方不明。その事に、マーガレットは今までで一番の不安を感じた。片割れがいないなんて、胸がざわめいてしまう。
「私が見つけに行きます。アザレアは大事な弟だから……」
「マーガレット、ここは騎士様に任せよう。君にも何かあったら、エレンも心配する」
「でも、私は行きたいのです。槍だって得意ですし、何より片割れに何かあったのに、呑気に城で暮らせません!」
どうしても、マーガレットは探しに城下へ行くようだ。
そんな子供の強い思いに、ダニエルは困り果てていた。その時だ。
「ダニエル様、マーガレット様は私がお守り致しましょう」
「貴方は、フェイさん……」
現れたのは、母・エレンの護衛騎士であるフェイ・ローレンスだ。
「丁度、エレン王女からアザレア様を探しにと命令されましたので」
「そうか……。なら、フェイさんにマーガレットを任せて貰えるかい?」
「勿論、マーガレット様もお守り致します」
「なら、分かった。フェイさん、どうかマーガレットをよろしくね」
なんとかアザレア探しに行く事になりそうだ。
マーガレットは、そっとフェイの顔を眺めた。フェイの顔を見ていると、顔がにやけてしまう。
「それでは、マーガレット様。準備が出来たら、城門の前にいて下さい」
「分かりました、フェイさん……」
こうして、フェイと一緒に、マーガレットはアザレアを探しに向かう事になった。
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