四季の話

春の二人

 雪はもう姿をなくし、地面には花が芽吹いてきたころ。空は青く澄み、日差しは柔らかく射してくる。

 澄羅は窓辺のサボテンに水をやりつつ、その陽を浴びていた。

 春と言えば桜。ここ、アーセルトレイにも桜は生息している。極東で毎年春に見ていた光景を、ここでもみることができるのは、澄羅にとっては喜ばしいことだった。

 もう何度目の春になるかはわからないが、今年も春がやってくるのだ。


 春。別れの季節であり、出会いの季節。

 澄羅はこの年も、極東美術の講師に抜擢されている。学園に通うことは決定しており、旅の途中、美術を教えていたフェリシアもまた、学生ではなく教員として勤務することが決まっていた。

「フェリ、お弁当は持ったかい」

「え、っと~……うん、大丈夫」

 同じ学園、同じ教師という立場とは言え、広い学園内、昼食を共にすることはできないこともある。致し方ないとはいえ、やはり同席したいところはある。

 けれどそのわがままも、星の騎士ステラナイトではなくなった自分たちには通らないものだ。

 それでも、こうして共に学園に向かえる春が、いとおしい。

 同じ家から出て、隣を歩き、そして仕事が終われば同じ家に帰る。

 そんな、なんともない平凡な日常が、いかに幸福で満たされているか。

 並木道で春の風に吹かれる。

 揺れる銀糸は、太陽の光を受け、宝石のように輝いた。

「澄羅さん?」

 振り返る彼女に、微笑みかける。

「なんでもないよ。さ、遅刻しないように急がないとね」


 この通りが、桜で満開になるころ、私たちはどんなことをしているんだろうね。

 あと何度、春を迎えられるかわからないけれど、一つ一つ、大切にしていきたい。

 人の終わりは、すぐにきてしまうものだから。

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希望の担い手 りゅうあ @Ryuahiyo5

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