主人公は、やむを得ない事情でニワトリ型宇宙人の体に脳を移植した地球人。
代用品の航法コンピューターは無人戦闘攻撃機のAIで、感覚が輸送船のそれではない。
元の体を取り戻すため、違法行為も辞さない運送業で資金を稼ぐ日々……。
主人公がマスコット的な外見で、雰囲気が明るく、会話にも品があるので、一瞬ごまかされそうになりますが――主人公は自分の命と金のためなら即座に他人を切り捨てる非情な人物ですし、世界は金と力の論理で回り、登場人物の多くは無法者か訳有りです。
可愛い絵柄のカートゥーンや教育テレビに紛れて侵食し、保護者の目を盗んで子供をスペオペ脳に染め上げる、あの系譜と言えば伝わるでしょうか?
概ね1話1エピソードで話が進むので、毎回キリ良く楽しめるのも嬉しい良作です。
主人公は冗談や誇張抜きで、「大藪春彦氏の著作の主人公たちと比べてさえも」ハードボイルドな存在であり、非人間的でさえもある。
この主人公に比べれば「汚れた英雄」の主人公(レースに勝利すること以外には徹底的に冷血)でさえも「義理堅く、誰か人間に対して愛情を持つことがある」と言える。
あるいは「長く熱い復讐」の主人公でさえも「仇を殺すときに仇の妻子を巻き添えにすることに良心の呵責を覚える」分、本作の主人公よりはずっとマシな人物である。
が、その一方でほのぼのとした作品でもある。
主人公は間違いなく悪党なのだが、好き好んで悪事を働くわけではない。
「自分が生きるために必要な悪事であれば殺人さえも一瞬の躊躇無く行う」が。
そして「必要のない悪事は避ける。主に自分がどこかの星系で逮捕されたときのために」と言う行動原理がある。
主人公はある事情により人間性を喪失しているらしき描写もある。
しかし、そのような主人公を中心としていながら、また容赦と躊躇の無い殺人シーンまでありながら、安心して読み進めることができるふんわりとした雰囲気が両立している。
珍しい「ほのぼのとしたハードボイルド」である。是非一読をお勧め。
別作品がとても軽快で読みやすい文章だったので、こちらの作品も読みに来ました。
星間航行する貨物船の船長(と言うよりトラックのドライバー?)が主人公のSFモノ。
いつか辿り着く「本筋」がありつつ、1話ごとにストーリーが完結するとても読みやすい構成なので、読みたい時にサッと読める手軽さが良かったです。
(1話あたり20-30分程度でしょうか)
舞台設定を押し付けがましく書かずに、一話ごとのショートストーリーの中にさり気なく埋め込み、「本筋」がゆっくり見えてくる展開は、長編アニメの様な「次はどんなストーリーが来てどの部分が見えてくるのだろう?」と言う楽しみがあってこの先に期待をせずにいられません。
SF設定も最初はメカニカル路線で行くかと思いきや、バイオ系の描写もあり、今後どんなテクノロジーが出てくるのか楽しみです。
一気に読むのも暇な時に一話ずつ読むのも、どちらもオススメできます。
2020/4/18加筆
後半3-4話を読み終わりました。やはり良いテンポで読めることは、何よりも「この先を見たくなる」そんな文章と物語でした。
1-2話から更に踏み込んで、様々な「本筋」への伏線が出てくる中、3-4話は一気にハードボイルドな冒険内容になり、この物語の「幅の広さ」が伺えました。
SF設定が大きくブレず、また「都合が良すぎない」所が個人的に好感が持てました。
今後も楽しみです!!