四「ウマシアシカビヒコヂ」

 古事記において、造化三神ぞうかさんしんの次に誕生した、四番目の神である。

「次に国わかく、けるあぶらごとくしてくらげなすただよへる時に、葦牙あしかびの如くあがる物にりて成りませる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこぢのかみ。次に天之常立神あめのとこたちのかみ二柱ふたはしらの神も、みな独神ひとりがみと成りして、身を隠したまふ。

 かみくだり五柱いつはしらの神は別天ことあまつ神」



 上記するように、天之御中主神あめのみなかぬしのかみから天之常立神までの五柱の神々をまとめて、特別な神のことを指す別天つ神と称している。

 漢字の「牙」は芽に通じ、読みの「カビ」はイネ科植物の穂先で、要するに芽のこと。「ウマシ」は美称であり、「ヒコヂ」は優れた男性を表す。

 まだ安定した状態にはなかった国(大地)の固有の生成力・生命力の強さを、旺盛に伸びるあしの芽(アシカビ)に象徴させて神格化した男神であることがわかる。



 そして、この神の次に「天のいしずえ」ともいえる天常立神あめのとこたちのかみが登場する。つまりこの神は、大地の一部が萌えあがり分離し、その生成力・生命力によって「天の礎」が形成されたことを告げているのである。

 日本国の神話的名称が「葦原中国あしはらのなかつくに」であり、国づくりを完成させた国津神くにつかみの主神・大国主神おおくにぬしのかみの別名が「葦原醜男あしはらのしこお」であるように、葦は日本の国づくりと関係がある。

 ウマシアシカビヒコヂという神名のあり方を考えると、間接的にだが、葦原中国の豊かな将来を暗示するために誕生した神、といえるのかもしれない。



 葦の群生する湿地は、古くは水田をひらくのに適した土地として好まれた。

 しかし、古事記では重要視された神だが、日本書紀本文には登場しない。

 第一段の一書あるふみに、少しだけ名前が記されているだけである。



 第一段の一書第二には、最初に誕生した神として書かれている。

「一書にはく、いにしえ国稚くにいしく地稚つちいしき時に、たとへば浮膏うかべるあぶらごとくして漂蕩ただよへり。時に、国の中に物生ものなれり。かたち葦牙のでたるが如し。これに因りて化生なりいづる神す。可美葦牙彦舅尊うましあしかびひこぢのみことまうす。次に国常立尊。次に国狭槌尊。葉木国、此をば播挙矩爾はこくにと云ふ。可美、此をば于麻時うましと云ふ」



 また、同段の一書第三にも、最初に誕生した神として書かれている。

「一書に曰はく、天地あめつちまろかれ成る時に、始めて神人かみ有す。可美葦牙彦舅尊と号す。次に国底立尊くにのそこたちのみこと。彦舅、此をば比古尼ひこぢと云ふ」



 そして最後に、やや飛んで一書第六にも、こちらは二番目に誕生した神として書かれている。

「一書に曰はく、天地初めて判るるときに、物有り。葦牙のごとくして、空の中にれり。此に因りてる神を、天常立尊と号す。次に可美葦牙彦舅尊。又物有り。浮膏の若くして、空の中に生れり。此に因りて化る神を、国常立尊と号す」

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神様別に読む「古事記・日本書紀」 モンキー書房 @monkey_shoboh

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