第10話 扉

ゴブリンと彼氏くんの遺体がある広間を後にし、ゴブリンが逃げていった通路へ進む。その道中には、4畳程の小さな部屋があり、様々な物が散乱していた。


「うぷ。ひどい匂いだな」


人の頭蓋骨らしきものや、用途のわからない道具が、乱雑に積まれている。


「ゴブリンのゴミ捨て場、といったところか。お、ここにも剣が落ちてるな」


ご丁寧に鞘まで付いているぞ。いい感じの紐を繋いで、肩に掛けて帯剣しよう。

黒咲も広間の隅に落ちていた、何かの皮で造られたと思われる小盾を見つけ、拾い上げた。


「これで、先輩の役に立てるかもしれません」


先ほどの戦闘は、不意打ちで撃退できた訳だが、毎回そう理想通りにいくとは思っていない。黒咲は不測の事態のために、盾役になるのだというのだ。

ゴブリンの体格は小学生並み、黒咲は女性としては平均的な身長である。


「それでもあいつら、意外に力があったからな」


初遭遇で押し倒された恐怖を思い出す。止めるための説得の言葉を考えていたのだが、すっかりやる気になってしまった黒咲は、先へ先へと進んでしまう。

うーむ。なし崩し的に、そのまま戦闘へ参加する事になりそうだ・・・・・・。

後に続くオールバック達も、それぞれ武器になりそうなものを拾い、探索を再び進めることにした。更に幾つかの分かれ道を、印を付けつつ、進み続けて数十分。


「・・・・・・行き止まりですね」


考えてみれば、この洞窟を進んだ先に、出口があるという保証は無いんだよな。


「さっきの分かれ道に戻るか」


「はい」


「ゴボォォォッ!」


元来た道へ引き返しそうと、後ろを振り向いたタイミングで突然、どこからとも無くゴブリンが2体飛び出し、襲い掛かってきた。


「先輩!」


すかさず黒咲が、俺とゴブリンの間に割り込み、盾を突き出した。


「つっ!」


「ボガァッ!」


1体のゴブリンが、身体ごとぶつかる様に盾へ突っ込んだ。鈍い衝突音と共に、ゴブリンは後方へと弾かれ、尻餅を付く。残るもう一体が、標的を黒咲に変えて飛び掛かる。


「くっ・・・・・・!」


黒咲は、ゴブリンの衝突で体制を崩していたため、無防備な格好を晒していた。

骨ナイフを手にしたゴブリンが黒咲に迫る。


「グギャァッ!」


しかし、その凶刃は黒咲に届かない。

ゴブリンの腹部には、剣が突き刺さり、背中へと突き抜けている。

念動力で放った鉄剣である。

貫いた切っ先は、そのままゴブリンを引っ下げて、更に黒咲の盾に倒れ、起き上がろうと膝立ちになっていたゴブリンをも巻き込んで貫く。


「ゲギャアアッ!」


鉄剣はそのまま勢いを落とさず、岩壁にゴブリンたちを縫い付けるように突き刺さり、埋まってしまった。


「さ、さすが先輩です・・・・・・」


「いや、それよりも危ないところだった。助かったぞ黒咲」


まさかゴブリン共に、不意打ち返しされるとは、想定外というものだ。

黒咲の守りがなければ、どうなっていたことか。ゴブリン共々岩壁に埋まってしまった剣を、これまた念動力で強引に回収してみた。刃の部分がズダズダになっている上に、剣自体が大きく歪んでいる。もう使い物にはならなそうだ。


「凄い威力でしたね」


「サイコパワーが、更に強くなっているようだな」


剣を引き抜いたことで、支えを失い、地面に放り出されたゴブリン共を見る。


「あの広間で、逃げていったゴブリンだよな?」


うろ覚えではあるが、ゴブリンのみすぼらしい格好には見覚えがあった。


「一体、どこから現われたんでしょう?」


「うーむ。背後には岩壁しかないんだが」


よく近づいて目を凝らしてみるが、やはりそこにはゴブリン達が這い出るような大きさの隙間は見当たらない。

何か仕掛けでもあるのかと、直接岩壁に手で触れてみた。


「!?なんだこれは・・・・・・」


その光景に目を見張る。俺の腕が、肘先から消えていた。

岩の感触を感じること無く、すり抜けている。


「幻の壁ですね」


そう言いながら、壁の間を行ったり来たりと、反復動作を繰り返す黒咲。

一体どういう仕組みでこんな現象が起きるのか、興味は湧くが今はそれにかまけている場合ではない。幻の壁を抜け、その先へ歩く。


「今度は扉か」


周辺の岩とは、明らかに質感の異なる、重厚そうな造りの扉が登場。

表面には精緻で複雑な、幾何学模様が刻まれている。


「どうやって開くのでしょう?取っ手や鍵穴は、見当たりませんね」


警戒しつつ、少しずつ扉へと近づく。


「うぐっ」


すると突然、耳鳴りと、脳を揺さぶるような感覚に襲われる。


「先輩?どうしたんですか?」


「罠かもしれない。離れていろ」


黒咲を下がらせようと、腕を掴む。


「あ。扉が開きますよ」


扉が地響きを立てながら、独りでに上部へと開き始める。

そして、扉が開ききると同時に、奇妙な感覚も収まった。


「ゲホッゴホッ!」


結構な量の、埃が立ち上がる。


「随分と長い間、扉は閉ざされていたようだ」


「はい。なんだか、わくわくしてきました。先輩」


「さすが黒咲だ」


メンタルつよぃ。











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最底辺の超能力者が異世界で魔王指定されてしまう話 sizu @saikisiguma

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