夢のまた夢

深見萩緒

夢のまた夢


 ようこそ、人生相談室へ。ここはあなたのお悩みをよく聞き、よく共感し、よくアドバイスする相談室。ストレス社会となった現代の、いわば心の休憩所のような場所です。それで、本日はどのようなご相談で?


「夢を見るんです」


 女は、そう言った。

 そんなもの、別に普通のことじゃないかと俺は内心で笑う。わざわざここに相談しに来るようなことじゃない。

 では、例えば昔のトラウマを夢に見るとか、嫌な上司が夢に出てくるとか、そういうふうに夢の内容が問題なのでしょうか。と訊ねると、それも違うと言う。


「内容は普通なんです。目覚ましのアラームが鳴ったら布団から出て、朝ごはんを食べて、着替えて……」


 おや、あなたは夢の中でも日常を繰り返しているんですか。律儀なことですね。


「そうなんです。それが恐ろしいんです」


 なるほど。真面目な人間ほど損をする現代社会。あまりの生真面目さに恐ろしくなってしまう、そういうこともあるかもしれません。


「そうじゃなくて。現実だと思っていたら、夢なんです。いつまでたっても、夢から醒めてもまた夢で」


 ああ、そうでしたか。それもまた、よくある話ですね。神経症ですよ、ストレスでしょうね。精神科へお行きなさい。


 違うんです、と女。


「だってまだ、終わっていないんですもの。ほら、また」


 ぐにゃりと、部屋が歪んだ。


「あら、いやだわ。また夢だったのね」


 ぐにゃりと、俺も歪んだ。「ごめんなさいね」と申し訳なさそうに女が謝る。

 どこからか、目覚まし時計のアラームが聞こえた気がした。

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夢のまた夢 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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