第40話 事情

 葉山茂は連続強姦魔として、手配をされていた。

 女子高生ばかりを狙った葉山は、犯行に及ぶ前とは別人のようであるという印象だ。


 葉山家には、度々警察が事情を聞きに行っていたが、その誰もが記憶に何らかの影響を受け、また、葉山茂も帰っていない事から、葉山家への捜査は監視のみとなっていた。


 葉山自身も、一見普通のサラリーマンであったが、犯行に及ぶ事になった後は、浮浪者のような風貌になり、精神を病んでいるかのようになっていたらしい。


 家にも帰らず、仕事にも行かない。


 居場所の特定も出来ず、捜査は捗らなかった。


 ブルージェイルも、場当たり的な対処しか出来ず、イライラを募らせていた。

 本来ブルージェイルは、ある程度特定された、法律で裁くにも時間がかかったり、胸糞悪くなるけれど対処が難しい事件等に動く。

 その他は、街の治安維持。


 裏の人間なら兎も角、元々が普通のサラリーマンでは、当然警察よりも人物の捜索等は不得意である。


 今回偶然あたしがユウさんについて行かなければ、遭遇するのはもう少し後だったかもしれない。

 それどころか、ユウさんが殺人で捕まっていた可能性が高い。


 あの後、無反応だった葉山ゆかりは、母親の彩花が付き添い、あたし達が家を後にする直前、静かに泣き出した。


 桜智さんに聞いたところ、ゆかりが記憶に関する能力があったようで、無意識に発動した力が混乱を招いたようだった。自分を守る為だろうけど、それが起こっていない現在は、母親が母親としての役割を果たしているからかもしれない。


 何時からかは分からないが、ゆかりは父親から性的虐待を受け続けていた。本当の母親は死別。


 そして再婚相手は、ゆかりを本当の娘のように可愛がっていたという。

 ゆかりも信頼をしていたのだろう。

 そんな母親に、一番知られたくない姿を見られ、絶望した。その時に力が発動したと言う事か。


 力が発動した状態を何とかしようと、ユウさんと楓が力を貸し、その原因を突き止めた。


 すると、力は解除されたが、解除されたのは家の中に居た人間だけではなかった。


 一番影響を受けていた父親にも記憶が戻り、家に戻ってから、あの状態になった。

 どうやら、記憶を失っている間の事も当然覚えているらしく、葉山茂は精神がおかしくなっていた間の、連続強姦魔としての記憶があり、今度は本当に精神崩壊をする。混乱しながら家に帰ると、ゆかりを含め、数人が意識を失っていた。


 完全におかしくなった葉山茂はゆかりだけを部屋に運び、それからは見た通りだ。


 細かい事は家族じゃないと分からないけど、ゆかりの事は母親が責任をもつと言っていたから、今後は母娘で頑張ってもらうしかない。


 それよりも問題は、ユウさんと楓だ。


 楓はしばらく仕事を休んでいるらしいし、ユウさんは、何故かあたしの家にいる。


 フラリと『監獄Cafe鉄拳』に来たかと思うと、全く喋らず、閉店まで居た。

 異様な雰囲気で、帰ろうとしなかったので、家に泊める事にした。


「なんかあったんですね?帰りたくないなら、家に来ますか?」


「…悪い」


 そう言いながら、家に泊まった。

 真奈もいるから、残念な事に変な事にはならなかったが、仕事も辞めると言っていたので、少しだけ話をしようと思った。


「悩んでるなら、区切りが必要じゃないんですか?そのままにしてたらダメになりますよ?」


 そう言うと、ユウさんは暗い笑みを浮かべた。


「はっ…もうダメになってる」


「事情、話せますか?」


 暫くの間、沈黙が流れる。

 その後、ユウさんは顔を歪め、ポツリと呟いた。


「…人を殺した」


「…そう、ですか」


 それ以上は聞けなかった。

 誰を殺したのか、何故殺したのか、全く分からないけど、それが本意ではなかったと言う事も、苦しんでいる事も分かった。


 もう少し時間が必要なのかもしれない。


 楓とも話す機会を得なければならないが、今楓は自分の部屋に帰っておらず、何処に居るのか分からない状態だ。


 電話もメッセージも、返事がない。


 モヤモヤとした気分が晴れることも無く、時間だけが過ぎていく。



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Fairy tale 司馬楽 みちなり @shibarakumichinari

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