VOL.7
広場は、静まり返る。
兵士たちは一言も声を上げない。
目だけが冷たく光っている。その視線は俺に対してのものではなく、泡を吹いて倒
れている”総帥閣下”そして情けなく地面にへたり込んでいる”大尉”と”大男”であることは、はっきり理解出来た。
次に『兵士たち』の中から次に聞こえたのは、
『舌打ち』と、そして携えていた武器を地面に投げ落とす音だった。
中には着ていた軍服を脱ぎ捨て、地面に唾を吐き捨てるものもいる。
俺も手にしていた木銃を投げ捨て、踵を返した。
『待ってください』
誰かが俺に声をかけた。
『貴方は本当に・・・・何者なんですか?』
『俺かい?俺は、ただの元”自衛官”さ』
そう言って俺は滅多に人前では吹かない口笛で『空の神兵』を鳴らしながら、歩き去った。
カッコつけるのは好きじゃないが、まあ今日は
山を下りたところで、俺は携帯を取り出し、依頼人に連絡をした。
北条の爺さんからは、
『うん、ご苦労だった。有難う』
という答えが返ってきたきりである。
日はもうとっぷりと暮れ、来た時よりも遥かに寒くなっていた。
こんな時、東京までまさか歩くわけにもゆくまいが・・・・まあ、どこか適当な場所まで出れば、タクシー位拾えるだろう・・・・そう考えながら歩いていると、
『よう、お疲れ!探偵さん!』
クラクションと共に、甲高い声が聞こえた。
薄汚れた4WD、つまりはジョージの車だった。
『乗れよ。ここから東京まで歩いたら、明日の朝になっても着かないぜ』
俺は何も言わずに助手席のドアを開けて中に乗り込んだ。
『良かったら、コーヒーがあるぜ』
ジョージは後部座席に手を回し、銀色の水筒を取り出してくると、俺に手渡した。
『首尾は?』
『受けた依頼は確実にやってのける。それが探偵だ』
水筒の蓋を開けると、薫り高いコーヒーが鼻をくすぐった。
目を上げると、フロントガラスに白いものがチラつき出している。
カー・ラジオからは今年初の寒波が予定より早く近づき、明日にでも関東地方は雪に見舞われるだろうとニュースが告げていた。
『革命は失敗ってとこか?』
俺がコップ代わりの蓋の一杯目を飲み干して、ちょっと驚いたような顔を見せると、ジョージはミラー越しにウィンクをし、
『俺を誰だと思ってんだ?蛇の道は蛇だぜ』
俺は苦笑しながら二杯目を飲み、水筒をボトルスタンドに置き、シートを倒した。
次の日、俺は北条の爺さんの弁護士とやらから電話を受け、爺さんが昨日屋敷内の自室で切腹をして果てたという。
遺言により、俺へのギャラは諸経費及び危険手当に礼金も含めて、きっちりと指定口座に振り込まれた。
え?
『なんとか同盟』の連中はどうなったかって?
さあ、どうなったかね。
うっかりしてそこまで聞きそびれた。
まあ、あの爺さんのことだ。
きっちりと始末はつけたことだろうよ。
折しも東京は朝から雪が舞って、アスファルトを白く彩った。
白かっただけましだな。
戦争ごっこで赤く染まらなかっただけでもさ。
終り
*)この物語はフィクションです。登場人物その他は全て作者の想像の産物であります。
雪が降る前に・・・・ 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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