VOL.6

 大男はナイフを水平に構え、真っすぐ俺に突っかかってきた。だが、俺の方が奴より一瞬早く踏み出し、右の肩口へと突きの一撃を食らわす。


 だが、流石に大男。一瞬ひるんだものの、またすぐに態勢を立て直すと、もう一度突いてかかって来た。


 俺はもう一歩踏み出し、こちらから奴に体当たりをくらわし、足絡みを掛けて向こう側に倒してやった。


 起き上がろうとしたところを、顔の寸前に木銃の切っ先を突き付けてやった。


『まっ、参った』


 大男は唇を噛み締め、低い声で負けを認めた。


『次っ!』


”総帥”のいらついた声に反応して出てきたのは、あのジョン・レノン風眼鏡の、

”大尉”だった。


 彼は腰に帯びていたサーベル・・・・というより、それは外装だけをサーベル風の拵えにした日本刀を抜き放ち、八相に構え、少しづつ間合いを詰めてくる。


 恰好は大層なものだが、こっちから見ると隙だらけだ。


 そして、丁度一メートルほどに詰まった時である。


 奴は鋭い叫び声をあげて、斬りかかって来た。


 俺は辛うじて身体を横に泳がせ、剣を避ける。


 奴の舌打ちが俺の耳にも届いたが、向こうが二・三歩たたらを踏んだ次の瞬間、俺の木銃が奴の胸の真ん中を捉え、身体が後ろに大きくのめったところを、木銃の台尻が手首に当たり、奴の剣が大きく宙にはねあがった。


『ま、まいった。』哀れな奴の声が血のあぶくと共に口から出た時、もう地面に情けなく倒れていた。


『お次は?』


 俺は木銃を構えなおし、辺りを見回す。


 気分は殆ど宮本武蔵だった。


 椅子に座っていた『総帥』は、腰を浮かして辺りを見回した。


 だが、兵隊たちは互いに目を逸らし、誰一人として進んで前に出て来るものなど

いない。


 俺は総帥をねめつけ、


『では総帥閣下、おん自らお相手を願いましょうか?』


 少し嫌味ったらしく、出来るだけサディスティックに声を掛けた。


”総帥”の顔は真っ青だった。


 彼は椅子の傍らに立てかけてあった軍刀(これは見るからに日本刀の拵えになっている)を取り上げると、すらりと鞘を払った。


 彼は上段に構えてはいる。


 構えだけは堂に入ったものだが、剣先が細かく震えている。


 俺は十分に距離を取って、奴の周りをわざとゆっくり周った。


 総帥閣下は、目を三角に吊り上げ、殆ど金切り声に近い叫びをあげている。


 それを見ていた周囲の兵隊達の顔には次第に白けたような、冷めたような表情に変わってきているのが俺にも分かった。


 叫び声のトーンが、少し高くなった。


 次の瞬間、奴は剣先を真っすぐに俺に向け、地面を払って突いてかかって来た。


 木銃が剣の横腹に当たり、鈍い音を立てる。


 奴の姿勢がぐらついたのを見定めた俺は、木銃を返しつつ、足絡みで倒し、馬乗りになって、思い切り台尻で腹を縦に突いた。


”総帥”は白目をむき、世にも情けない叫び声をあげ、口から泡を吹き、卒倒した。


                  



 


 

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