VOL.5
俺は置かれた椅子に腰を下ろし、足を組んだ。
周りの人間が俺の無作法さに不愉快さを示しているのがはっきりと感じ取れた。
『さて・・・では聞こうか?』
葉巻をふかし、”総帥”は俺を見下すような視線で言った。
『お前らの”
俺は負けずに奴の顔を睨みつけてやった。
『誰に頼まれたか知らんが、それは無駄な努力だな。我々は四日後・・・・つまりは雪が降るその日に必ず決起する。これはもう絶対に揺るがないのだ』
『あんな玩具みたいな武器を使ってか?』
『今の日本ならそれで十分だろう』
”総帥”はそれから嫌な嗤いを口元に浮かべ、何故自分(彼ははっきり一人称を使った)がこの決起を思い至ったか、そして四日後、つまりは確実に都内に雪が降るその日に行われ、それが確実に成功するという”根拠”とやらを
(これについてはここに記すまでもない。というより、記すのは嫌いなのだ。自分一人の夢想に酔ってる奴の戯言を描き散らすほど、俺も暇じゃない)
『もういい』、俺は手錠で繋がれた両手を上げ、奴の言葉を制し、
『あんたのご高説はもういいだろう。それより俺の尋問はどうなった?聞きたくないのか?』
”総帥”は自分の演説を途中で阻まれたのが余程不愉快だったのだろう。それでも出来るだけ表情を変えずに、
『そ、そうだったな』といい、灰皿の上に置いていた葉巻を取り、再び煙をくゆらせた。
『では、改めて問う。そのある人物とは何者だ?』
『ただ、べらべらと喋るのはやだねぇ』
俺は腕を組み、頭を明後日の方向に反らせて嘯いた。
『どうしたら喋る?』
『力比べってのはどうだい?』
『力比べ?』
『そう、つまりさ、あんたのところの腕自慢と俺が対戦し、そっちが勝ったら何でも喋ってやる。ってのは?そっちは何人でもいい・・・・と言いたいところだが、散々な目に遭わされた後だ。三人にしとこう。俺が一人で三人まで相手する。万が一俺が三人全員倒したら、俺の勝ち。俺は何も喋らないでこのまま解放。もし俺が一回でも負けたら』
『負けたら?』
『言うまでもないだろ?そちらのご希望通りにしてやるよ』
閣下が唾を飲みこむ音が、俺の耳に届いた。
『よ、よかろう・・・・約束は忘れるなよ。男同士だからな』
『いいだろう。何なら血判でも押すかね?』
俺はにやりと笑って見せた。
会場は俺が最初に覗きみた、あの広々とした射撃場だった。
四方は切り立った崖に囲まれ、その上は雑木林。
射撃場の中はざっと見ただけで、凡そ百人近くの人間・・・・全員黒っぽい詰襟の『軍服』を着ている。
(”総帥”が語ったところによれば、同志はここだけじゃない。もう既に都内の各地に固まった兵力が分散していて、決起の合図と共に行動を起こす手筈になっているそうだ)
俺は自前のワークブーツ(とはいっても、自衛隊時代に訓練用に使っていたごつい奴だが)に作業用ズボン。それに黒のタンクトップといういで立ちだ。
渡された獲物は『好きなものを選んでいい』ということだったので、銃剣道用の木銃をチョイスした。
ルールは至って簡単なものだ。
・審判、及び制限時間は無し。
・相手の身体のどこを攻撃しても構わない。
・どちらか一方が参ったをするか。もしくは完全に正気を失うかで勝負を決する。
しかし、そうはいっても『ルールがない』となれば、相手は何をしてくるか分かったもんじゃない。
下手をすれば命の危険だって十分ある。
だが、俺には自信があった。
奴らが持っているような根拠のないもんじゃない。
確かなものだ。
俺が木銃を構えて立っていると、軍服の中から、俺を痛めつけたあの大男が出てきた。
そいつは手に、丁度映画でランボーが使っていたような、やけに刃渡りの長い、肉厚のナイフを握って、ニタニタと笑っている。
彼は少し離れたところに、一人だけ椅子に腰かけていた、
”総帥閣下”に向かって、顔の前でナイフを構え、礼をした。
俺はぞんざいにぺこりと形式的に頭を下げただけにとどめた。
すると、大男の後ろで銃を構えていた一人が、空に向かって一発、空砲を放つ。
どうやらこれが開始の合図らしい。
大男は両腕を大きく開き、ナイフを構え、残忍そうな目つきで俺にじりじりと迫ってきた。
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