続章 アネモネとクロッカス

部屋から時雨が出て言った後、口の中で保っておいた薬を吐き捨てた。


「睡眠薬……時雨、どうして」


その時、台所の方から時雨の叫び声と机を叩く音が聞こえる。

僕は耳を塞ぐように布団に潜りこんだ。


お願いだから、僕に現実悲しみを押し付けないで。


耳を塞いでもガラスが割れる音と叫び声が聞こえた。

やがて訪れる静寂。

しばらくして夏の蝉が五月蠅く鳴き始めた。



あぁ、もう夏だ。

四季が巡ったんだ。



「時雨、僕は君の事が大好きだ。けど、姉さんを忘れることなんて出来ない」


枕の下から一枚のボロボロになった写真を手に取る。

白いワンピース姿の瑞穂が写った写真。


今まで毎日肌身離さず持っていた物。

この世で一番愛している人。



「間違って…ない。そうだよね、姉さん」


僕は目を閉じ、額に写真を軽く当てた。

そして、小さく、それはもう、誰にも聞こえない程に小さく。

まるで僕自身に言い聞かせるかのように、呟いた。


「だって、これが僕の救えない程の姉愛きょうあいなんだから」






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姉愛のメーデー 米 八矢 @Senna8

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