エピローグ

 浦上智巳ともみと真上寺有希はペアとして共に世界を巡る。半年経つ頃には気温の上昇は落ち着き、一年も経つと僅かに下がり始めた。場所によっては季節が戻って来たところもある。冷却魔法を応用したCO₂回収プラントも軌道に乗った。危機は去ったのである。


 その頃から有希は最大威力の魔法は使わなくなった。威力(色々な意味で)があり過ぎて、危機が去った今、世界に不安を与えかねなかった。直径十キロの範囲のあらゆるものが凍りつき、真空爆縮で辺りは破壊し尽くされる。小型核兵器並の破壊力は一個人が持つには大きすぎた。彼女のための最大効率に高めた魔法と専用のMAADは何処かの国の厳重な金庫の奥深くに仕舞われることになるだろう。


 人間とは勝手なもので、喉元過ぎれば簡単に忘れ去る。とはいえ、世界は新たな秩序に向け努力が始まったのも確かであった。


 いまや魔法は確かな力となった。科学技術同様に社会は魔法を手放すことはないだろう。そして、新しい力は社会の役に立つと同時に禍も生み出す。魔法使いも普通の人なのだ。

 光があれば闇も生まれる。力に溺れれば簡単に身を滅ぼす。偏見は社会に残る。嫉妬からの差別もなくなりはしないだろう。魔法使いたちの本当の歴史が始まったのである。


 だが、ふたりにとってそれらは些細なことだった。今は下の名前で呼び合い仲良く暮らすふたりは、研究中心の生活に戻っている。浦上にとって地球を巡り人々を助けるために頑張ることは甲斐のあることではあった。でも、好奇心の赴くまま研究を行うことが本当の生き甲斐だった。

 世界に知られることで、面倒くさいこともあるが、自由も手に入れることができたのだった。


 ところで、浦上が目指した本来の目的、新エネルギー源としての応用は彼の手だけでは完成できなかった。どうしても、エネルギーのフィードバックを抑えることができなかったのだ。かろうじてリミッターは組み込めたが、すぐにオーバーフローしてリミッタが効いて止まってしまう。それでは、安定的なエネルギー源としては利用できない。ある意味人間の脳は魔法と親和性が高すぎた。

 必要なエネルギーが得られれば、その人間の許容量まで、事象干渉力魔力の限界まで魔法を行使しようとしてしまう。それは、自然が仕掛けた罠のようだった。

 その問題は思ってもみなかった分野から解決策が示された。


 そうしてエネルギー問題を解決した人類の版図は宇宙へと広がる。

 だが、それはまた別の物語である。

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絶対温度マイナス99° 灰色 洋鳥 @hirotori-haiiro

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