二十八章 別れの時
世界の命運を賭けた
軍の半数近くがこの戦により命を落とし、尚且つ、白朱が別世界から連れてきた者達が二人も犠牲になってしまったのだ。
今、連合軍将兵は孫策、夏候淵といった将の遺体の前で咽び泣き、それを霊体となった彼らが上から見ている。
「すまない。君達まで・・・・・・・・・」
白朱が泰平と安徳の前で頭を下げた。自分の不明を詫びたのだ。
『いいですよ、別に』
最も、本人達は気にもとめていないようで、逆に彼に対していい経験が出来た、と礼を述べるくらいだ。
その中で、青龍や華龍らは顔をにやつかせていた。
「貴様ら! 死者を愚弄しているのか!」
雑兵の一人が叫んだ。当然との反応と思う。
すまないと聖龍は彼らを代表して詫びた。
「伏龍よ。隠しとらんで、さっさとやったらどうじゃ?」
「何のことじゃな?」
伏龍はとぼけて見せるも、青龍はとぼけおってと苦笑した。
「・・・・・・まあ、そうじゃな」
伏龍はつかつかと白朱の元へ歩いていった。
「あれを使う」
それだけ言って、もときた道を戻っていった。
「師よ。あれとは何だ?」
弟子の呂布が尋ねても彼はただ微笑するだけであった。
伏龍は遺体の前に来ると手をかざした。
「ふんっ!」
彼のかざした手がカッと光り、辺りを包みこんだ。眩しさのあまり皆は手で顔を覆った。
光が収まり、手をどけて彼らは更なる衝撃を受ける。
そこには、さっきまで骸となっていた劉備や孫策、安徳や泰平らの他に、今までの戦いで散っていった一般兵までもが、その場に生前の姿のまま突っ立っていた。
一瞬わけが分からなかった彼らであったが、張飛が劉備に飛び付いたのを皮切りに、友に、主君に、兄弟にと続々に抱き合い、その喜びを分かち合った。
「面白い奴に会えた。サービスというものじゃな」
伏龍がククッと笑いながら言った。
「後は頼んだ」
そう言うと、彼の身体がガックリと崩れ落ち、慌てて達子が支える。
心配する呉禁に、達子は彼の頭を撫でながら
「大丈夫よ。ちょっと疲れて寝てるだけだから」
それを聞いた呉禁は安心したらしく、笑顔で劉封らのもとへ走っていった。
達子はそこに正座すると、龍二の頭をそこに乗せた。
「お疲れ様」
心地いい寝顔で、寝息をたてている、右眼に眼帯をした龍二の頬にキスすると、彼が起きるまで頭を撫でていた。
宴が盛り上がる。焚き火を囲み、酒を喰らい、肉をかじる、どんちゃん騒ぎが所々で起きる。大宴会である。
ここぞとばかりに、張飛は大好物のたんまり入った酒墫の中身をかっ喰らう。この日ばかりは、劉備も咎めなることはしなかった。
「翼徳さん、勝負しませんか?」
安徳がまだ空いていない酒樽を指して笑む。彼の誘いに彼女は乗った。
「一度勝負したかった」
というのが理由らしい。
龍は彼らで昔話やらで楽しみながら飲み食いし、龍一は義輝と政義や為憲、滿就と、四聖は帝や鳳凰らと共に談笑していた。
そんな様子を、龍二は端から見ていた。
(お主も行ってくればいいじゃないか)
伏龍が語りかけてきた。
(酒飲めねぇの。そういうお前こそ、アイツらと飲んでくりゃいいじゃねぇか)
(大技二つも使ったのじゃ。疲れて出ていけん)
(へぇ~龍でも疲れんだ)
(まぁな。人外の者とはいえ、さほどお主らと構造は変わらん)
意外だなと思いつつ、眼の前の肉にぱくついた。
「りゅ~りぃ~」
「おわっ!?」
その時、いきなり達子が持たれかかってきたので倒れそうなるのを何とか堪えた。彼女を見れば、頬が赤らんでおり、手に酒瓶を持っていて、かつ酒臭かった。
「お前酒飲んでんのか!?」
「あんら、こんらとこいないでこっちきらはいよ~」
「ばっ、おま、飲みすぎだ!」
「いいらない、今日くらひ、のまへなひゃいよ~」
「呂律回ってねぇよ! つか、そんな問題じゃねぇ!」
がみがみ文句を言う龍二の態度が気に入らなかったのだろう、達子はムッとした顔になり、
「ひょんなら、こうひてひゃる~」と龍二の顔を強引に自分の方に向かせると自分の唇を彼の唇に押し付けた。
「¢♂&Ⅸ@※!」
突然の出来事に龍二の頭は混乱した。状況を理解したのはそれから数秒もかからなかったが、一部始終を見ていた泰平らが待ってましたとばかりにからかい始める。
「おい、龍二。な~に見せつけてくれてんだよおい♪」
「おやおや。早速お熱いですね~♪」
「あらあら。ごちそうさま♪♪」
「※%♂§⑱㌶㌍!!(んなこと言ってねぇで誰かコイツを止めてくれ!)」
龍二の願い虚しく、誰も彼を助けてくれることはなかった。
龍二が解放されたのはそれから暫く経ってからのことだった。
「どうら~これへもまらこはむか~」
「分かった! 分かった! 飲むから! 飲むからもうやめてくれ!」
紅潮させた顔で龍二が一気に言うと、達子はニコッと笑い龍二の手をとり
「ほら~はらくいくのら~」
と彼を連れていった。
「尻に敷かれてんじゃねぇよー!」
誰かが言った途端爆笑がおこった。
「わははははっ! あやつも大変なこったな。まるで昔の誰かさんを見ているようだわい!」
見ていた青龍が快笑しながら言った。
「ねぇねぇ。龍二と達子ってデキてるの?」
きょとんとしていた玄武が朱雀に訊くと、彼女は頭を撫でながら
「あら、知らなかったの? でも、お子ちゃまの玄武にはまだ早いわよ」
「おこちゃま言うなー!」
「ははは。君達も相変わらずだね」
白朱が笑う。
「それにしても、あの娘なかなかやるではないか」
「そうね~。タッちゃん結構積極的だったね」
一方、龍彦は護衛将隊の面々に囲まれていた。
「総隊長も人が悪いな~。教えてくれても良かったのに」
「あっはっは。悪い悪い。でもそうしたらお前ら信じたのか?」
彼は普段と変わりなく話していた。
「多分」
「総隊長、何で劉姓を名乗ってたんスか?」
「別に意味はねぇよ。ただ、孫にバレちゃマズかったからな」
「何でですか?」
「一応、俺の世界じゃ俺は死んだことになってるからな。
まさか半世紀以上前に死んでいる祖父が生きているなんて知ったら、魂が口から抜けていくぞと軽く笑う。
龍彦への質問攻撃は止むことが無い。
「でも、明日でお別れか~。何か寂しいな」
「だったら、お前らも来るか? そこで暢気に酒喰らってやがる無駄に能力が高くて面倒事を押し付けて来やがる迷惑バカに頼みゃ、あっという間だぜ?」
別れの朝が来る。
三国の代表と帝が、白朱の居城に集まっていた。
「うわーん、さみしいよー」
「・・・・・・あの、尚香さん? これじゃ俺帰れないんですけど?」
泣き縋る尚香に告げるも、彼女には全く聞いていない。
「じゃあな呉禁。元気でな」
仕方なく、彼は同じように側で泣いていた呉禁の頭をポンポンと叩いた。呉禁は涙を拭くとにっこりとくしゃくしゃな顔で笑った。彼なりの精一杯なのだろう。
「・・・・・・玄徳さん。すんません、コレ、何とかしてください」
龍二の切実なる願いに、劉備は尚香を宥めながらそっと離してやった。
「でも、兄貴達が帰ったら親父達眼玉飛び出るくらい驚くぞ?」
「だろうな。何せ俺は六十年前に行方不明になった上に当時の姿でまんま現れんだ。驚きすぎて死んでまうんでねぇの?」
「ノーコメントで」
あははと笑いがこぼれる。
「皆さん、そろそろいいかな?」
白朱が促すと一行は頷いた。
「じゃあなお前ら。俺達のこと忘れんなよ!」
「貴方がたも我々のことを忘れないで下さいね」
別れを告げた一行は、もとの世界へと帰っていった。
異説三國志 少年少女冒険譚 soetomo @soetomo
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