首都市街地戦 2

「東門、突破されました!飛行種の増援です!」


「飛行種の対処は魔術師に任せろ。東門生存者は、オストメル通りまで後退!防衛戦を再構築しろ!」


「承知!」


「誰か、北門へ伝令!今の話を伝えた上で、レゲルナ通りまで戦線を後退させろ!ジュデンには北門から西門へと向かう敵の漸減を要請!」


「ただちに!」


「クライスは予備兵力から半分を引き抜いて、オストメルへ先行!後退してくる味方を支援だ!ノルノが動けないようなら、指揮は任せる」


「任された!」


「もう一人伝令を!軍の方へ現状を報告せよ!それと、皇帝たちの動向も掴んできてくれ」


「俺が行きますよ!」



 慌ただしく指示を出した後、背後を見る。乗船待ちの人の群れは減ってはいるものの、まだまだかかりそうだ。


「予備隊は対空警戒を厳に!飛行種が出てきたらしい、接近を確認したら撃ち落とせ。船をやらせるなよ?」


「あいよ!」「任せな」「り、了解です」「来るなら来やがれってんだ」


「いよいよ、市街戦か」


 仲間の声を浴びながら、苦い顔で呟いた。




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「うおおおおおおおおおおぁ!」「ここまで来てびびってんじゃねえ!」

「手を動かせ!一匹でも多く切り刻むんだよ!」「もうダメだ。数が違いすぎる」

「やらなきゃやられるだけだろうがよ!」「誰か!治癒術を!!」


 オストメル通りは戦闘の狂気一色に染まっていた。南北に伸びるこの通りを北に行けば、途中でレゲルナ通りと交差し、南に行けば海へと通じている。


 東から濁流のように押し寄せる魔物達を、冒険者達は地形を利用して押しとどめている。つまりは、魔物が狭い路地からオストメル通りへと出てくるところを、ひたすら手に持った得物で殺し続けているのだった。


 各路地の出口は、とめどなく押し寄せる魔物の死体と体液で石畳すら見えない有様だ。


 東からオストメル通りへと通じる大通りはいくつかあるが、そのいずれもがレゲルナ通りより北に位置している。


 つまりレゲルナ通りさえ押さえていれば、他にオストメル通りへと続く大通りは皆無。ヒヅキがここで戦線を引き直したのは、守るのに最も都合がいい為であった。レゲルナ通りについても、おおむね同じ条件だ。


 路地から飛び出してくる魔物は近接戦闘派が処理し、屋根や空から襲い掛かってくる敵は、後衛の魔術や弓、銃で処理する。この分担によりかろうじてではあるが、濁流に対する防波堤の役割を彼らは担うことができていた。


「重度の負傷者は、ギルドの船まで運んでしまえ!医療班と治癒術師の予備が待機しているから、任せておけばいい!」


 そんな最前線に立つクライスは、ノルノの代わりに指揮を執っていた。だが、当のノルノは負傷しているわけでも、ましてや戦死したわけでもない。近接戦闘のベテランとして、路地から突出してくる魔物の処理に、率先して当たっているのだった。ノルノに指示を出す余裕がないと判断したクライスは、自身の判断で代わりに指揮を取っている。その判断は誤っておらず、おかげでノルノは眼前の敵に集中することができたのだった。



 こうして、冒険者達はどうにか戦線を立て直すことに成功した。


 しかし、それも長くは持たなかった。


 戦局を単独で左右できる強大な存在が、北から帝都に向かって進撃を始めていたためである。


 ヒヅキ称するところの魔王が、いよいよ最前線の渦中へと乗り出そうとしていた。

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一冊のライトノベルから始まった、冒険者ギルド運営 PKT @pekathin

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