第10話
「お疲れ様、テツコ」
「テツシです………ってボス?」
病院の廊下でベンチに座り、ボーッと天井を眺めていた俺のもとにボスがズカズカと歩み寄ってくる。
手には大きな某ドーナツチェーン店の箱。
差し入れなのだろうが、負傷した部下を見舞うには若干セコいような気がする。
「誰がセコいって?」
「あだだだだだだ!! だから心を読まないでくださいって!!」
ボスが全体重をかけて俺の足を踏みつける。
その小さな体に見合って大した重さではないはずだが、例のツボを爪先で突かれているため痛みは体重以上だ。
「で、愛の容体は?」
ようやく俺の足から退いたボスの問いかけに、俺は首を横に振る。
あの青い魔法少女を捕らえた後、俺はすぐに救急車を呼び、星見ケ丘さんを搬送してもらった。
迅速な処置のおかげで星見ケ丘さんも意識を取り戻し、今病室のベッドで安静にしているのだが…………。
「ちわー。
「あ、
「あいよー」
俺は丁度やって来た出前の兄ちゃんと、ボスを伴って病室に入る。
病室のベッドでは星見ケ丘さんが一心不乱に熱々のピザを頬張っている最中だった。
「ご注文の五目ラーメン、焼き餃子、チャーシュー麺それぞれ五人前、お届けにあがりやしたー」
「わぁ~待ってたよ! そこに置いておいて!!」
星見ケ丘さんが指差すベッド備え付けの机の上には、既に大量の食品の空き容器や皿が並べられている。
出前の兄ちゃんはそれらを退かすと、大きな二つの岡持ちからどんどん出前を並べ始めた。
「…………愛は何の魔法を使ったんだ?」
「今回は『ペルセウス』を使ってます。多分、それの分かと………」
「なるほどな…………」
ボスは納得したように頷きながらも、こめかみを押さえてため息をつく。
実は、星見ケ丘さんは魔法を使うと毎回のようにこんなドカ食いを行っている。
他の魔法少女には見られない、星見ケ丘さんだけの特徴だ。
本人曰く、「魔法を使うとお腹が空く体質」らしい。
勿論、医学的根拠は何もない。
「ま、事件も解決したし、仕方ないか」
「結局あの魔法少女は何だったんですか?」
「お前たちが言ってた通り、登録されてないモグリの魔法少女だ。裏で汚い仕事を多く請け負っていたらしい。今回の輸送車襲撃事件も資金繰りに困った零細企業の依頼だったそうだ。まだまだ余罪が有りそうだからな。トコトン搾り出してやるさ」
「はぁ、まぁそんなところだろうとは思いましたけど………」
「それにしても、苦労かけたな」
「へ?」
「聞いたよ、現場でのこと。今回の件は
「『チクリチクリ』ねぇ………」
「なんだよ?」
「いや、何でもないっす」
多分、ボスの場合『チクリチクリ』じゃなくて、権力とコネを総動員してあらゆる限りの嫌がらせをするんだろうな………。
御愁傷様です、捜査一課。
いい気味だけど。
「ふぁ! びょふ! ふぉふふぁれふぁふぁふぇふ!!(あ! ボス! お疲れ様です!!)」
「口の中にモノ入れて喋るな。話は食べた後でいい」
「ふぉふふぁい!(了解!)」
呆れながら、ボスは近くのソファーに座る。
俺も苦笑いを浮かべながら、ボスの隣に座った。
「今回はお手柄だったな」
「いや、星見ケ丘さんのおかげですよ。元はといえば、油断した俺を庇って怪我をさせてしまったんですから………ボスに言われた『魔法少女の盾』としての役割をちゃんと果たせなかった。やっぱり、俺はまだまだです」
「……………」
『これからお前は、
魔特課に来た最初の日、俺がボスに言われた言葉だ。
ボスは俺に魔法少女を守れと言ったのだ。
何とも皮肉な話だ。
魔法少女から人々を守るための技で、その魔法少女を守れというのだから。
だが、俺はそれを了承した。
それが、父の遺言でもあったからだ。
『守ることに貴賤や区別はない』
だから、俺は守ると誓った。
全ての人を、一般人も、魔法少女も。
今はまだ、親父の受け売りなのかもしれない。
でも、『そうしたい』と思ったのは紛れもなく俺の意思だ。
『神代 鉄子』の意思として、今俺はここにいる。
「………それでもお前は愛をちゃんと守った。私は十分自分の役割を果たしたと思うぞ」
「慰めてくれるんですか?」
「私の慰めじゃ不満か?」
「いえ………ありがとうございます」
慰められてる時点で、『まだまだ自分は未熟だな』と思うが、それでもボスの言葉は純粋に嬉しかった。
俺も、もっと強くならなければ。
今度は完璧に星見ケ丘さんを守れるくらい、強く。
「だがまぁ、愛が負傷したのにはお前にも責任の一端は確かにある」
「は?」
「よってこれらの出前の代金、お前が負担しろ」
「は!? えええ!?」
「いやぁ~最近は経費削減でかなり苦しかったからなぁ! 助かるよ!!」
「ちょっ………ボス!?」
「というわけで愛! ジャンジャン食べていいぞ!! 次は寿司でも取るか?」
「本当!? テツくんありがとう~!! あ、そのドーナツもらっていいですか?」
「おお、勿論だ! あ、テツ安心しろ。ドーナツ代くらい私が奢ってやるからな」
「ちょっ…………ちょっと待てやコラァァァァ!!!」
病室に俺の断末魔がこだまする。
その日からしばらくの間、俺は塩だけを舐める生活を強いられたのだった。
魔法少女に手錠をかけないで ふーけ @Fouque0257
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