貧乏ギルドの魔剣使い

夏井優樹

貧乏ギルドと田舎の青年

第0話 貧乏剣士は叶わぬ夢をみる

 じいちゃんの口癖は「男たるもの冒険者になって誰かの役に立つ人間になれ」である。

 辺境の田舎に住んでるただの木こりにしちゃ随分とご立派な考えなのだが、そのおかげで俺はガキの頃から心底どうでもいい人助けの手伝いばかりやらされていた。 

 隣の村の食堂まで食料を届けたりとか、牧場から逃げ出した家畜を追い回したりとか、そういや村長の屋敷の掃除とかもあったっけ。

 

 おい。これどうポジティブに解釈しても人助けじゃなくてただの雑用じゃねーか。

 そんな日常が我慢できずになけなしの貯金を握り締めて、故郷の村を飛び出したのが1年前。ちょうど17歳の生誕日を迎えた春の頃。


 だが、じいちゃんの超絶くだらない教えにも1つだけ賛同できる部分がある。


 時は『大冒険時代』の真っ只中である。

 冒険者が幾多の英雄譚を生み、ギルドが中心となって世界を動かしている。

 未開のダンジョンに跋扈する凶悪な魔物。

 そいつらをバッサバッサと叩き斬って手にするのは誰もが羨む富と栄誉。

 故郷の村での貧乏暮らしとおさらばできるどころか、もしかしたら俺の銅像なんか建てられるかもしれない。いや、むしろ俺が建てる。


 そんな夢とロマンが手に届くとこにあると考えれば、そりゃじいちゃん言われなくたって冒険者になるっての。

 あえてじいちゃんの言葉に改変するなら「男たるもの冒険者になって一攫千金を目指せ」ってとこだろう。


 そんなわけで、冒険者を志す夢追い人の目指す先が『帝都オーディハイム』である。

 ここでは冒険者への登録手続きや報酬の受け取りができる『冒険者の宿り木』や、ギルドへの加入申請などが行える『ギルド会館』の他に、大小様々なギルドが集まって形成されている『 ギルド自治区』なんてのもあって、まさに大冒険時代を代表するような場所だ。


 道中の予期せぬトラブルで死にかけたり、そのせいでとてつもなくやっかいなお荷物を抱えたりしたものの、長旅を経てオーディハイムに辿り着いたのが1ヶ月前。

 おかげさまで貯金は底をついて数日ばかし飯にもありつけていなかったが、無事に冒険者への登録手続きも済ませて、ギルド会館を散策中に偶然にもS級ギルド(自称)にスカウトされてしまう俺ってば超ラッキー。

 

 もう明るい未来しか見えない!

 俺の成り上がり人生スタート!

 まず腹いっぱい飯が食いたい! 


 とか思っていた。


 しかしまあ、現実はそう甘くないよね。

 うん。どっちかといえば激辛だったね。


 あえてじいちゃんの言葉を改変するなら『男たるもの………絶対に冒険者だけはやめとけ!』である。

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