第4話 貧乏ギルドの意地(主に空腹を我慢すること)

 突然だが、ここで『ギルド』というものについて少しだけ解説しておこう。


 はじまりについては諸説あるものの、数百年前まで単独でダンジョン探索を行っていた冒険者たちが『これ1人よりみんなでやったほうが効率よくね?』という事実に気付き、その集団の中で一番賢かった冒険者が『ちゃんとした組織にしちゃったほうがもっと統率とれるんじゃね?』という名案を思いつき、最終的に集団の中でリーダー格だった冒険者が『ここまできたら細かいルールを決めて組合とか作っちゃったほうがよくね?』という決断をしたのが起源らしい。


 当初は探索ギルドしかなかったわけだが、いつの間にかそいつらの探索活動のために必要な物資を用意してあげる鍛冶ギルドや甲冑ギルドが生まれて、そのうちにそいつらが物資を製作するのに必要な素材を提供してあげる採掘ギルドや採集ギルドが生まれて、今度はそいつらを鉱山とか樹海に連れてってあげる輸送ギルドや海運ギルドが生まれて……ってな感じで、需要と供給を満たしていくうちにギルドは爆発的に発展していったわけである。


 そんでもって、千差万別なギルドを管理するために帝都オーディハイムのお偉いさんによって国営機関の『ギルド会館』が設立され、帝都公認という後ろ楯を得たギルドはいよいよ隆盛の極みをむかえていた。


 これぞ夢とロマンに溢れた『大冒険時代』の幕開けである。


 以上、冒険者登録をした際に、〈冒険者の宿り木〉でもらった資料より抜粋。途中から話が難しくてついていけませんでしたよっと。クレームいれたろか。


 しかしまあ、ぶっちゃけた話になるが、うちみたいな零細ギルドはあってもなくても『大冒険時代』にはなんの影響は与えないわけで、毎月のギルド税の支払いでクエスト報酬を使いきってるからここ1ヶ月ぐらいまともな飯にもありつけないとかむしろ「帝都公認の罰ゲームですか?」的な雰囲気になってるわけで……。

 もうさっさとこんなクソギルド解散してしまったほうがみんな幸せになれると思うのは俺だけですか?


 ちなみに帝都に存在する(正しくは帝都の管轄下にある)ギルドには、その規模や功績によってSS級~G級までランク付けがされている。

 当然ながら我らのギルドはG級である。

 最低ランクのGである。

 それを指摘すると、幼女は「G級のGは『がんばれ!』って意味だから期待されてる証拠」とか謎のポジティブシンキングを発揮してくるのだが、はっきりいって思い違いも甚だしく、むしろG級のGは『ギブアップ』という意味だと理解している。

 つまりさっさと諦めろってことだ。


 そもそも我らのギルドは存在自体が中途半端なのですよ。


 例えば、ダンジョンを探索するなら『探索ギルド』、立派な武具を作るなら『鍛冶ギルド』、うまいご飯を作るなら『調理ギルド』、魔術や真理を研究するなら『魔術ギルド』って具合に各分野ごとで系統が確立されてて、基本的には『ギルド=専門家集団』という認識が一般的なわけ。つーか、常識といってもいい。


 それにも関わらず、なにを考えてんのかあのアホが結成したのは掟破りの『なんでも屋ギルド』なのですよ。


 その名が示すように、俺たちの活動は特定の分野に偏っておらず、それこそ表向きには『依頼されればなんでもやる便利屋集団!」を謳っているものの……実態としては他のギルドが自分たちの団員を使うまでもないと判断した簡単な仕事を超格安の料金とリリス嬢の笑顔で受注しているだけだった。


 おまけに看板娘のリリス嬢は「人助けは冒険者として当然の義務です!」とか真顔で言っちゃうスーパーお人好しガールだから、どう考えても割りに合わない報酬でヤバめな依頼を受注しちゃうこともあるし、なんなら依頼とは関係ない頼まれごととかを無料で手伝っちゃうし、ある意味あの幼女より厄介だったりするのね。

 

 ちなみに俺の経験からいわせてもらえば、親切なんてのは毒だ。

 相手も自分も腐らせる。


 どうせなら『なんでも屋ギルド』じゃなくて、『奉仕ギルド』に改名したほうがよくね?

 そんなことを思う今日この頃である。

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