第5話 猫探しと受付と配達

「あ、あの……ヴァスティさん……そろそろ本日のクエスト内容をお伝えしてもいいですか?」

「あーうん。大丈夫。たぶん大丈夫」


 度重なる自爆の末、心の殻に閉じこもること30分。

 ようやく心の傷も癒えてきたところで、毎朝恒例のクエスト発表の時間となった。


 我らのギルドの1日は、まず朝イチでリリスがギルド会館に行って依頼を受注して、団員が揃ったところで誰が担当するか決めるところからはじまる。

 多いときでは5~6件、少なくても最低1件は依頼が入っているが、ほとんどサービスに近い料金なので数をこなさなければ儲けにならない。

 いや、実際は儲けが出ているかもかなり怪しいところではある。


「えっと……今日は3件のクエストを受注しました。1つ目が『迷い猫の捜索』、2つ目が『展示会の受付』、3つ目が『貴重品の配達』です」


 リリスが手にした羊皮紙をスラスラと読み上げていく。


「ふーむ。今日もしょぼいクエストばっかりで張り合いがないわ」


 アクビをしながら悪態をつく幼女。


「つーか、お前は今まで1回も現場にでたことねーだろ。文句をいう前に少しは働けアホ」

「うるさいわね。団長の仕事はギルドハウスに鎮座してみんなの帰る家を守ることなのよ」

「こんなボロ家を襲うヤツとかいねーから」


 なんでもお隣のギルドさんからは『ゴミ屋敷』とか呼ばれてるらしい。まあ、実際そのとおりですけどね。


「もう! 2人ともはケンカはその辺にしてください!」

「「へーい」」

「それではいつものように立候補制にしますね。希望のクエストはありますか?」


 そう言いながら、リリスは左手に羊皮紙、右手にペンを持つ。


「3つ目の配達クエストは俺がやるわ」


 そこですかさず立候補。

 何故3つ目を選んだかって?

 理由は簡単。2週間前に『迷い犬の捜索』を担当したときはどこを探しても見つけきれなくてギルド自治区を1日中さ迷うはめになったし、1週間前に『抽選会の受付』を担当したときは依頼してきたギルドのヤツに「リリスさんは?」とか露骨にこれじゃない感を出されて不愉快な思いをしたからだ。

 その点、『貴重品の配達』は楽チンだろう。

 品物を受け取ってから指定の場所に指定の時間までに配達するだけの簡単なお仕事だ。

 バカでかいギルド自治区の地図もあるし、ある程度はどこになにがあるかも覚えている。

 さっさと終わらせて先にひと休みしとくかな。


「分かりました。私は問題ないですが、ハインツさんはどうですか?」

「問題ないっすよ! そしたら俺っちは『迷い猫の捜索』をやるっす!」

「猫が猫を探すとか……これぞまさに『猫の手も借りたい』ってやつだな」

「あー! アレン君ひどいっすね! それ種族差別っすよ!」

「なんだよ。冗談に決まってんだろ」


 派手に抗議の声をあげるものの、ジェニ男の顔はあいからわずのニヤケ顔である。ホントもう男前が台無しね。


「では、私は『展示会の受付』を担当しますね」

「そのほうがいいっす! アレン君みたいにのしかめっ面した受付嬢じゃ誰も寄りつかないっすよ!」

「うるせーよバカ」

「これがヴァスティさんのクエスト詳細となっているので目を通しておいてください」


 そう言って、リリスが羊皮紙を1枚差し出す。


「あいよ。んじゃ早速いってくるわ」


 適当に返事をしてから羊皮紙を受け取り、俺は1人だけスタスタとギルドハウスを後にした。


『待たぬか小僧。我輩を置いていくでない』


 訂正。

 1人と1匹でギルドハウスを後にした。

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貧乏ギルドの魔剣使い 夏井優樹 @SUMMER_KID

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