最終話:絵に描くようにラブコメを

「トリプルデート!?」

「ダメか?」

「いや・・・ダメじゃないけど・・・いいの?大体GirlちゃんがOKしないでしょ」

「いや。多分彼女は受けてくれる」


 ほんとにその通りになった。

 役者はMid、Sugar、そしてGirlちゃん。

 舞台は池袋。サンシャインの水族館。


「きれいですね」

「うんうん。Girlちゃんに喜んでもらえて嬉しいよ」

「セッティングは僕だぞ」

「Mid〜。細かい事は気にしない〜」


 僕は水が好きだ。

 空も好きだ。

 青いから。

 青い光で潤うから。


「ねえねえMid。また絵のアイディア考えてるんでしょぉー」

「ああ。すまない。この水槽の中に灯台があったらどうかな、って思って」

「わあ・・・Midさん、素敵ですね」

「Girlちゃんもそう思ってくれる?」

「はい」

「なんだよなんだよ。まるで恋人みたいな雰囲気で」

「あ。すみませんSugarさん。今日はこれからお二人で重大なお話をされるんですもんね。わたしはちゃんと分をわきまえてますので」

「じゅ、重大な話って・・・」

「違うんですか?Sugarさん?」

「そ、それはMid次第・・・」

「うん。するよ。Sugar。後で大事な話をする。Girlちゃんも立ち会ってくれるかな」

「・・・はい」


 今度は泣かずにしっかり返事してくれた。


「MidさんとSugarさんの人生の岐路。見届けさせていただきます」


 周りからこの3人はどんな関係に見えてるんだろうな。

 Girlちゃんは膝下の柔らかなスカートにトップスは濃いグレーの、多分カシミアのセーター。センスよくしかも今日は目立たぬようにという配慮がなされた大人の出で立ち。


 反して佐藤の方はモスグリーンのショートパンツに上は白地に十字架とドクロのメンバーイラストがペイントされたガンズ・アンド・ローゼズの長袖Tシャツ、そしてやっぱりモスグリーンのGジャン。

 って匂わせておいたのにこれだからな。

 まあ、照れてるんだろうな。佐藤らしい。


「じゃ、登ろっか」


 水族館をゆっくりと時間をかけて鑑賞した後で佐藤が号令をかけた。

 Girlちゃん以外は地方出身者。高い所に登りたがる習性がある。だからという訳じゃないけどこれも僕のセッティングでサンシャインの頂上展望台のエレベーターに乗った。


 日曜の午後早い時間なのに空いてる。

 通天閣を超える高さを僕らは高速移動して、エレベーターから降りた途端に視界が広がった。


「わあ!」


 声を上げたのは、Girlちゃん。

 普段はなかなか見せてくれない少女らしいはしゃぎ方だ。


「Girlちゃんはサンシャイン初めて?」

「はい。MidさんとSugarさんは?」

「僕は大学入って上京したての時に登った」

「やだ。わたしは入社準備でアパート決めに来たその日に登った」

「田舎者だな」

「Midこそ」

「あの・・・」

「う、うんそうだね。始めようか」

「ああ。いいぞ」


 僕と佐藤は、おそらく富士山が見えるはずの窓のところに移動する。今日は曇ってて見えないけど、その窓の大きなガラスに沿って、ふたりで向き合って立つ。

 Girlちゃんの位置からは映画のスクリーンに映し出されるふたりを観るような感じになっているはずだ。

 スタンバイできたところでGirlちゃんが言った。


「あの・・・提案なんですけど。下の名前で言い合った方がよくないですか?」

「え?下の名前?」


 まあ。そうだな。

 一応、儀式としてはその方が絵になるだろう。


「じゃあ。Girlちゃんにはまだ言ってなかったね。僕の下の名前は、しん。そういえば佐藤は?」

「はあ?」

「佐藤の下の名前ってなんだよ」

「え」

「え」

「な、なに?ふたりとも。Girlちゃんまで」

「真中ぁっ!」


 うわ。


「3年近く一緒に居て今更何言ってんのよ!」

「ごめん、ほんとに知らないんだ。だって、別に支障ないだろ?」

「Midさん。さすがにそれはどうかと思います・・・」

「そ、そうか。で?結局なんていう名前なんだ?」

「くぅーううう。ま・な・か・めぇー・・・」

「わ、悪かった。頼む。教えてくれ」

「・・・漢字は『愛情』」

「あ、『愛情』すごいな。き、きれいだな」

「ラブ・・・」

「う、うん?」

「愛情と書いてラブ。LOVEラブがわたしの名前だよっ!!」


 き、キラキラネームだったのかーっ!!


「か、かわいいです!さ、さあ、おふたりとも。仕切り直して!」

「う、うん。えーと、愛情LOVE

「う・・・」

愛情LOVE

「⚡︎⚡︎⚡︎えーい!佐藤でいいよっ!」

「佐藤。好きだ」

「う」

「大好きだ」

「うぅ・・・」

「まだ足りないのか。じゃあ愛してる」

「なんなんだよっ!って」

「恋人、ってことでいいか?」

「・・・いいよ」


 ふう。疲れた。


「第一幕終わりっ!次、第二幕っ!Girlちゃん、ううん、美露ミロちゃん!」

「は、はい!LOVE愛情さん!」


 第二幕?

 佐藤。何やろうってんだ?


「男の恋人は真中。で、女の恋人はミロちゃんだよ」

「LOVEさん?」

「好きだよ。愛してるよ、ミロちゃん」

「ら、LOVEさん・・・あの、もしかしてそれって百合的な・・・?」

「ち、違う違う!ほら、年明けに原宿のカフェで話したでしょ?貴女だけのになるって。ま、まだ言い方が変だな。つまり・・・」


 佐藤はちっこい背のクセに年上っぽくミロちゃんの手を握った。

 見上げながら言った。


「この先ミロちゃんにどんなことが起ころうがわたしに何があろうが、わたしにとって女の中での一番はミロちゃんだよ。何を差し置いても貴女を優先する」

「LOVEさん・・・嬉しいです」


 ふたりとも満面の笑みでしばらく見つめ合っていた。


 チッ、チッ。


 ん?スマホのカメラの音?


「あ、マズイ。佐藤、ミロちゃん」


 展望台の人たちがいつの間にかぐるっと女子二人を取り囲んで写真を撮っていた。


「多分、百合的に撮られてる!逃げよう!」


 常識的なひとたちはそこでやめたが修学旅行の女子中学生たちは信じられないことに僕らを追いかけてきた。


「み、ミロちゃん!降りたら何かおいしいもの食べようか!」

「はい!ケーキバイキングとかどうですか!?」

「いいねー。真中のおごりで。ところで真中は預金いくらあるの!?」

「結婚したら通帳渡すよ」

「け、けちこん・・・血痕!?」


 佐藤だなあ・・・






おしまい!


⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎

 お読みくださりありがとうございました!

 日常の中にいかにしてスラップスティック(ドタバタ)を放り込めるかと最初は危惧していたのですが、キャラたちの自由行動(傍若無人?)のお陰で全く悩むことなく書き進められました。

 キャラたちに感謝です!

 そしてこの荒唐無稽な展開にもノークレームで我慢してお読みくださり応援してくださった皆さんに感謝いたします。

 ほんとうにありがとうございました!

(o^^o)

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絵描きを好きになったレディ・ハッピィ naka-motoo @naka-motoo

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