地球サーバー2こそこの世の楽園だ!!!

ちびまるフォイ

地球サーバーに突撃アタック

「ああ、クソ! また落ちやがったよ!!」


銃で敵を倒して本陣に切り込んだ瞬間にサーバーが落ちてしまった。

このゲームは好きなのに人気なだけにアクセスが集中すると落ちることが頻発する。


「クソ運営め。サーバー強化はよ、っと……」


今の気持ちをSNSで流すと思った以上に賛同者がいたのか

夜遅くまで通知音が鳴りっぱなしで眠れなかった。


翌日、目を覚ますと真っ暗な世界に選択肢だけが浮いている。



【 THE EARTH -server1- 】



「なんだ……?」


触れてみると、下に折りたたまれていた別のメニューが表示された。


THE EARTH -server1-

 └ THE EARTH -server2-


よくわからないまま触れていると、【THE EARTH -server2-】を選んだことになってしまった。

一瞬の明滅のあといつもの自分の部屋になっていた。


「さっきのは一体……、夢にしちゃあまりに現実味が……」


脳内で急きょ夢会議をしていたが時計を見てそれどころじゃなくなった。

このままでは完全に遅刻する。慌てて外に飛び出した。


「えっ……?」


外は無人だった。

車通りが多い通りなのに、自転車すら通らない。


「おいおい、映画見すぎちゃったか……?」


地球にひとりだけになった男の映画を見たのはずっと前だ。

ハリウッド映画のように銃があればいいのに、手元にあるのはビジネスバッグと契約書類。

日本のビジネスマンのハリウッド進出の難しさを物語る。


「電車も走ってないって……なにがあったんだ」


待てど暮らせど電車も駅員もタクシーもバスもない。

まるで集団でどこかへ逃げたようにぱったりと人が消えている。


誰も見ていないと人は大胆になるのか近くの無人コンビニに入って、

リッチなお弁当を食べ散らかしてその日は終えた。


「これからひとりで生活していかなくちゃな……。

 まずはなにをするか、明日決めよう……」



【 THE EARTH -server2- 】



「またこれか。サーバー2ってなんなんだよ」


また浮いている文字にふれるとメニューが出てくる。

今度は「サーバー1」を選択した。



わんわんわん!!!



「ん……うるさいなぁ」


外で新聞屋さんに吠えている犬の声で目がさめた。


「犬……?」


昨日は人はもちろん犬もいなかった。

慌ててカーテンを開けると窓の外にはたくさんの人が行き交っていた。


「どうなってるんだ? 昨日は誰も生物いなかったのに」


サーバー1を選んだからだろうか。

というか、自分が今生きている世界はサーバー1なのか。


なにがなんだかわからないまま行きつけのコンビニに入った。


「だから!! 理由を聞いているんだ!!」

「すみませんすみません!!」


店では顔を真っ赤にした上司が店員を叱っていた。


「監視カメラにも映っていないのに高級幕の内弁当スーパーデラックスが

 3つも4つもなくなるなんてありえないんだよ!!

 やるとしたら死角を知っている内部の人間しかいないんだよ!!」


「ぼ、僕は本当になにもしていません!

 休憩時間だってずっとここに立っていました!」


「じゃあ監視カメラの映像を加工とかしたんだろう!

 最近の若いやつはそういう加工とかうまいんだろ!?」


「偏見ですよぉ!」


心当たりがあるのは俺だけだった。

昨日、サーバー2で食べ散らかしたのは監視カメラにも映っていなかった。


「ははーーん。そういうことか!」


悪い顔をしたまま次の人サーバー選択を待った。



【 THE EARTH -server1- 】

 └THE EARTH -server2-


「これでサーバー2に切り替えできるな」


サーバーを切り替えると無人の地球に爆誕した。

それはまるで自分が好き勝手できるパラレルワールドを手に入れたような気分だった。


「どうせ監視カメラには映らないしやりたい放題だ!」


いつも人が多すぎて入れなかったアミューズメント施設にも入れるし、

欲しいものは強奪し放題で、お店の最新グッズで遊び放題。


明日、友だちにピッカピカの金時計を見せつけるのが楽しみだ。



【 THE EARTH -server1- 】



サーバーをもとの世界に戻し直して朝を迎えた。


部屋には桃太郎もハンカチを噛みしめるようなほどのお宝が積まれている。

友だちを「一緒に遊ぼう」と呼んで、部屋を見せつけてやろう。


「どうしたんだよ急に遊びたいなんて、久しぶりじゃないか」


「いやーー、なんか急に家で! 家で!! 対戦ゲームがしたくって! 家で!!」


「なんなんだよその家おし……」


駅から家まで友だちをエスコートする。


「じゃーーん、これが今の俺の部屋です!!!」


「……ふぅーん。なんにもないんだな」


「えっ?」


部屋に入ると昨日かっぱらってきたあらゆるものがなくなっていた。

それどころか部屋にあったゲーム機すらなくなっている。


「ああああああ空き巣だ!! 空き巣が入ったんだ!!」


警察に通報して事情を話すとすぐに家の周囲に張り巡らされていた

動体センサーと赤外線、監視カメラの解析が行われた。


「……ダメですね、なにも映っていません」


「馬鹿な!? こんな大量に一度に盗まれたのに

 なにも映っていないほうがおかしいでしょう!?」


「本当にあったんですか? なくしたのではなく最初からなかったのでは?」


「俺が幻覚でも見たって言いたいんですか!!」


ミッション・インポッシブルでもインポッシブルな俺の部屋から大量に強奪するなんて。

別サーバーでもない限りそんなこと……。


「ま、まさか……」



【 THE EARTH -server2-     10】


今度はサーバー2を選択した。

よく見ると、サーバーの横には文字がついていた。


この数字があるだけで自分の仮説が間違っていないと確信する。


「俺以外にも別サーバーの地球に入れるやつがいたんだ」


サーバー2の地球に入ってから監視カメラを確認する。

サーバー1では何も映っていなかったが、今度はちがう。


近所の悪ガキたちが窓から金銀財宝大判小判を持ち出している映像が克明に記録されていた。


「おのれーー! 俺のサーバー2を悪用しやがって!!」


サーバ-2で映っていた記録映像をディスクに焼いてサーバー1で確認したものの、

そこにはやっぱり何も映っていない退屈な映像が続いているだけだった。

証拠を別サーバーの地球で確認することはできない。


『街のいたるところで謎のいたずら書きが!』

『超常現象か? 家畜の死体が相次いで発見』

『止まない放火と空き巣被害』


サーバー1のニュースでは連日連夜に相次ぐいたずらや犯罪を報道していた、

もはやサーバー2は俺が好き勝手できる桃源郷ではなくなった。


かといって、痕跡の残らないサーバー2で現行犯を捕まえることもできない。

逆ギレされてボコボコにされるのが関の山だ。


どうしたものかと悩みながら寝た日のこと。



【 THE EARTH -server1- 】

 └THE EARTH -server2-  100



「またサーバー2への接続者増えているなぁ……ん?」


ふと見ると、まだ先があった。



【 THE EARTH -server1- 】

 └THE EARTH -server2-  100

 └THE EARTH -server3-  0


「新しいサーバーが作れる!」


地球サーバー3に入ってみると懐かしの無人風景が広がった。

もう別サーバーを使って悪さはしないと心に決めたので、

サーバー2の悪ガキたちがつけた落書きを消し、盗んだバイクを取り戻した。


「このサーバーなら逆ギレされて報復されることもないな」


人助けをした日はよく眠れた。



【 THE EARTH -server1- 】

 └THE EARTH -server2-  97

 └THE EARTH -server3-  12



「嘘だろ……サーバー3にも流れてやがる……」


俺がサーバー3を開設したせいで、サーバー2の悪ガキや

なにもしらないサーバー1の人たちも流入してしまっていた。


『相次ぐ銭湯での女湯の壁破壊事件』

『ゲームショップからソフトが全部消える』

『車のフロントガラスに人糞!!』


「ちくしょう! もう俺ひとりじゃ無理だ!!」


サーバー3でサーバー2の後片付けをしたのは失敗だった、

俺が新しい入口を作ったせいでますます悪い人たちの足取りがつかめない。


サーバー1の地球での異変がサーバー2か3のどちらでやらかされた悪事なのか、

サーバー2の異変がサーバー3と1のどちらのせいなのか。


仮に、俺がサーバー4を開設して問題を解決したところで同じ結果になる。


「なんでこんなことになるんだ! 俺はただ自由に過ごしたかっただけなのに!!」


疲れ切って眠ると、再び地球のサーバー選択ができるようになった。


【 THE EARTH -server1- 】

 └THE EARTH -server2-  150

 └THE EARTH -server3-  37


「もうどうすればいいんだよ……」


地球サーバーを長く触れていると、見慣れないポップアップが表示された。



『サーバーを削除しますか?』



「え? できるの!?」


サーバー3を削除選択すると項目からサーバー3が消えた。

新しい地球サーバーを作ることもできれば消すこともできたんだ。


今度はサーバー2を消す。


【 THE EARTH -server1- 】

 └

 └


残るは、もともとの地球サーバーだけとなった。

これも消したらどうなるのだろうか。


「もしかしたら、自分の好きな地球が作れるとか……ないかな?」


おそるおそる好奇心に負けて地球サーバー1も消してしまった。


【 THE EARTH -server1- 】

 └

 └

 

何も表示されなくなってから数秒後、サーバー1が再び表示された。


「なぁんだ、全部消したらもう一度サーバー1ができるのか。普通だったな」


期待はずれな結果に満足をしつつも、サーバーを選択した。

いつもならこのまま翌朝に目がさめて……。


『地球に接続失敗しました』


「あれ?」



『地球に接続失敗しました』


「おかしいな」



『地球に接続失敗しました』


「いいかげんにしろよ!」


何度繰り返しても地球に戻ることはできない。

やっと別のメッセージが表示された。




『現在、追い出された8500000000人が地球に入ろうとしています。

 アクセスが集中すると地球サーバーがダウンします。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地球サーバー2こそこの世の楽園だ!!! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ