第6話

「あーなんだかなぁ。」

 朝食を終え、自室に戻りベットに転がり込む。

 スマホを鞄から取り出し連絡長を開く。

 そこには〈白石遥〉の連絡先が明記されていた。

「やっぱ、何にも来てないわな。」

 真は昔から人と関わることに躊躇してしまう癖があり、親しい友人は二人しかおらず、教室の中でも空気のような存在でいるのだが、本人はそのことを自負した上で自分を気に入っている。

 真に言わせてみれば好き好んで人と関係を持とうとする人の方がどうかしているんじゃないかと考えるタチの人間だ。 そんな真のスマホには殆ど通知は来ず、八割が母と妹からのメールである。

「んー、 暇だし夏の計画でも立てるか。」

 真の通う鷹揚高校の平均偏差値は五十五で、平均よりも少し高い。 

 その中でも真の入学試験の結果は上位二割に入っている。

 勉強机に向かって三十分程経ち、夏休みの一ヶ月のザックリとした計画を立て、最初の一週間の目標を明確に決めた。

「まぁ、こんなとこかな。 この調子で終わらせれば最後の二週間は自由に遊べるな。 つっても俺に遊ぶ相手なんていないけど。」

 そんな悲しい独り言を唱えた時のことだった。

 普段、鳴らない筈の真のスマホが初期設定のままの音で騒がしく鳴り響いた。

 焦って画面を見ると〈白石遥〉からの電話だった。

 数秒、通話に出ようか出まいか迷っていたが決心して電話を取った。

「……もしもし。」

「もしもし。 あっ、私、白石遥と言います。 黒澤真君とお話をさせて頂けませんか?」

「……俺が真だけど。」

「あっ、そうでしたか。 それは良かったです。」

「っていうか、俺のスマホなんだから当然でしょ。」

「そうなんですけど、一つ真君に確認しておきたい事があったので。」

「確認?」

「はい。 先日、学校で私たちに会った時、真君が何か引っ掛かる事を言っていましたよね?」

「ああ、白石さんが俺にくれた例の写真のことか。」

「そうです。 その事で今日はお話があって連絡させていただきました。」

「い、いやでもその辺の話はもう丸く収まったんじゃ……。」

「私も昨日まではそう思っていました。 ですが…。」

「ですが?」

「今日、その写真が私の家のポストにも入っていたんです。」

「えっ⁉︎」

 あの写真は真が教師である千尋に渡した筈なのだが。

 一瞬で背筋が凍る感覚があった。

「ど、どうして…。 やっぱり、写真をくれたのは白石さんじゃなかったんだ。」

「あ、当たり前です! そもそも写真の中に私が写っているのにどうやって撮ったって言うんですか!」

 これには白石もかなり困惑している様子だ。

「……確かに、言われてみればそうだな。」

「それともう少しお伝えしたい事があるので、電話では何ですのでもしご都合が合えば今日の空いている時間でお会いしたいのですが…。」

「今日は特に出掛ける用事はないから白石さんの都合で時間と場所決めていいよ。」

「そうですか。 それでは喫茶店らんぷというお店はご存知でしょうか?」

「ら、らんぷだって⁉︎」

「何ですかその反応は? もしかしてご存知あるんですか?」

「知ってるも何も俺の母親の職場なんだけど……。」

「まぁ! そんな偶然もあるんですね。 では、今日の十四時にランプでお待ちしています。」

「あ! いや、俺は!」

(別にどこでも良いって意味で言った訳じゃないのに…。)

 そんな真の本心を無視し無情に鳴り響く話中音であった。

「まったく、どうして俺の周りの女はこうもワガママが多いんだ。」

 文句を吐きつつも内心ドキドキもしていた。

 知り合ったばかりの女子と喫茶店で待ち合わせなど真にとって初めての体験だ。

 

 今は午前九時。

 約束の時間まで十分に時間はある。

 女子との会話で高揚した心を落ち着かせ、真は再び机に向かい勉強を再開したのであった。

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だから僕らは夢を見る チェダー @chedar

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