ドレープ - 幼き頃の白昼夢 -

七紙野くに

ドレープ - 幼き頃の白昼夢 -

目が覚めるとロコラは腰掛けていました。

やわらかい椅子。

どうやら、ちょっとお洒落な食堂のようです。

そうでした。

ママと街にお買い物に来ていたのでした。

「ドレープ一つ、それからホットミルクね」

ウェイターがお辞儀をして去っていきます。

「ママ、ドレープって何?」

「ああやって職人さんが作る飲み物よ」

指さした先では白髪で少しふっくらとしたおじいさんが動き回っています。

なんだか気難しそう。

「職人さんって?」

「あら、未だロコラには早かったわね、知らなくても良いわ」

ママの返事に不満を感じつつロコラは職人と呼ばれた人物の手元を見ています。

たくさん並んだポットからお玉で少ししずつ何かをすくい、丸いカップにそそいでいくのが分かります。

「ここのドレープは甘いの辛いの酸っぱいの、いっぱいあって、美味しいのよ」

「どれもコクがあるのよ」

なんだかどの容器の材料もとろーり、粘りけがあるよう。

「ママ、あれケチャップじゃないの」

「気にしなくて良いの、ここは夢の中だから」

「お嬢ちゃん、わしのドレープに文句があるのかい」

職人が振り返りました。

「わしがドレープといったらドレープなんじゃよ」

怒ってはいないみたいです。

「ママ、私もドレープが欲しい」

「ダメよ、ドレープはもっと大きくなってからね」

ここでのママとの会話は面白くありません。

ママから顔をそむけようと窓の外に目をやりました。

雲の影が流れていきます。

道行く人はみんな急ぎ足です。


「ロコラ、ドレープよ」


「えっ」

気が付くとママがこちらを見て微笑んでいます。

「ドレープは何処?」

「何言ってるの、それにドレープって?」

「職人さんが混ぜて作る飲み物って言ったじゃない」

「あら、寝ぼけてるのね」

右に人影をを感じたのでそちらを向くとさっきのウェイターさんが立っています。

「いかがいたしましょう?」

「そうね、ホットミルク二つ」

「それにドレープ」

ママが悪戯いたずらっぽく笑いました。

「かしこまりました、ホットミルクとドレープですね」

ウェイターも笑みを浮かべメモを走らせると厨房ちゅうぼうへ向かいました。

しばらくしてウェイターさんが戻ってきました。

「はい、ご注文のホットミルクです」

ママとロコラに一つずつホットミルクを置いた後、続けました。

「ドレープです」

ロコラの前には小さな花束がありました。

「ママ、これも夢の中?」

「いやぁね、未だ夢をみているの?」

「今日は眠そうね」


甘いミルクで暖まった二人はお店を出ました。

ロコラの右手には「ドレープ」と呼ばれた花束が握られていました。

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