1-5 蹂躙
「え…。」
声にならない声。突然起きた、とても受け入れ難い事態。
人が死ぬのを見るのは、もちろん初めてだった。
思考が完全に停止する。
誰もが呆然とする中、動いた者が2人。
王立剣術院総長"剣王"ヤークト、王立魔導院総長"魔法王"シュトルム。
「貴様ァァ!!!」
齢60を超えた老体をものともしない突貫。
「ッ…!!!」
声無き気迫とともに千の炎の槍が生み出される。
瞬く間に賊を間合いに入れた剣王が竜斬の剣を抜く。かつて2人の剣と魔法の王が王都に飛来した竜を撃退した時に用いたと言われる伝説級の剣。
剣に見とれる間も無く、一閃。
神閃。ジオの目にはそう見えた。
2週間とはいえ剣を振るう人間の誰もが目指す、剣の極地。こんな状況にもかかわらず見とれつつ、その剣の行方を見守る。
「衰えたな。剣王。」
剣風が吹き荒れる。振り抜かれた剣は確かにガリアを捉えていた。
カシャン。
微かな、しかし決定的な音は、伝説の剣が折れた音。
血飛沫とともに剣王の首から上が飛ぶ。
そしてそこに立つ、フードが外れ、無骨な黒剣を手に提げたリューク・イアン。
「ッ…炎よ!!」
咆哮と共に、黒炎の槍が賊を焼き滅ぼさんと殺到する。
ユノは、一時状況を忘れ見とれる。それは妄想することすらないほどの、魔法の極地のように見えた。
私もいつか…そんな思考が浮かぶほどに。
黒炎の大槍にしかし向かう、旋風。最上位魔法たる黒魔法ですらない、白い風。絶対に負けない、しかしそう思った刹那。
衝突。圧倒的な熱波と暴風が吹き荒れる。あまりの熱に目を閉じ、そして開ける。
目の前では魔法の王の首から下が無くなっていて。
その前には異形の斧の柄を振り抜いたエインヘリヤル2位ゼノンが立っていた。
ーー何も…見えなかった。
ーー魔法を物理で無理やり…なんで。
しかし戦慄する暇もなく次の首が飛ぶ。
後方から飛んできた見覚えのある、しかし首から下がない人物、法王。
無意識に後ろを見ると、4位ミレイユが血塗れた刃付きの盾を手に立っていた。
国の、魔法の、剣の、教会の4人の王が一度にして失われた。この3分間で起きたことを要約するとこういうことだろう。残されたのは着飾った貴族と、幼い勇者のみ。
「緊急時にあたり、私レイズ・アランデルがこの場を仕切らせてもらう!」
よく響く声が沈黙を破った。
我ら3B異世界を股に掛ける クーゲル @gstav800
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