1-4 謁見


「次!レイ殿、殿下の前へ!」


 腹に響く胴間声がとうとう自分の名を呼ぶ。つい先程終わらせてきた隣のジオが小突いてくるが、やり返す余裕などない。じっとりと脂汗が滲み緊張した面持ちで立ち上がる。

 中学校生活の卒業式も経験しておらず、小学校のそれもほとんど覚えていない彼らにとってかしこまった場は不慣れであったが、最後のレイまでの4人は思いのほかボロもなくこなしてしまった。後で文句つけてやる…と適当な恨み節を心の中で唱えて緊張を紛らわせようとする。

 なんとか躓くことも無く王様の前までたどり着く。


「そんなに畏まらなくても大丈夫じゃよ。」

どんなおっかない人か…と身構えていた事を見抜いてか、優しい微笑と共に囁きかけられる。

 すると、今までガチガチに緊張し強ばっていた体がふっ、と力が抜ける。包み込まれるような安心感。

 なるほどこれが王様か…と驚く程度の余裕は戻った、いや戻らされたことに気づき、苦笑する。


 謁見式と言っても、実際に行われるのは宝剣の授与だ。申し訳程度の刃を持つ黄金作りの短刀にこれでもかと宝石が散りばめられた、剣といより装飾品のようなものだ。しかしそこにある栄誉は測り締められ無いものがあり、宝剣授与と言えば誰しもが憧れるものである。


「国のため、民のため献身を期待する。武運を祈る。」


 短い、しかし先程の柔和な声と打って変わった威厳のある声と共に宝剣を渡される。

 両手で受け取ったそれは想像よりは軽く、軽量化の魔法がかけられていることに遅れて気づく。

 おっかなびっくり、しかし行きよりは遥かに危なげなく元いた場所に戻る。再びニヤリと笑いかけるジオに笑みを返す。


「これにて謁見式を終了致します!続けて武功を上げたものの表彰も執り行います!」


 再び声が響く。老齢な王への負担を考え、同じ機会に済ませてしまうという魂胆らしい。


「朝会の時の表彰みたいだな。」

「いやそんな軽いもんじゃないから…。」

 厳粛だった空気が少し緩み増えた囁き声に乗じて軽口を叩き合う。


「それでは聖教会特殊戦力、代表して第1位ガリア・マウアルケロン殿!前へ!」


 教会の人達が多く控えていた後方から音も立てずにフードを被った1人の男、いや女性が前へ出る。

 

 ガリア・マウアルケロン。


 ミアさんに各戦力について教わっている時エインヘリヤル唯一の女性にして最強の座を10年我がものにしている強者だ。具体的な戦果はなぜか無かったが、有事の際にのみ日の目を浴びる特殊戦力の長とだけあって相当の腕の持ち主なのであろう。


 不自然な程に気配を感じない無音の歩行をしばし目で追う。王と大勢の高貴な人の目線を浴びても流石に動じず王の前で跪く。

「実にご苦労であった。今後ともよろしく頼む。」

 変わらない威厳と優しさを兼ね持つ声と共に、宝剣がわたされる。それを両手で恭しく受け取るガリア。



「悪いな。」



 微かに、自分と王にしか聞こえない大きさの呟き。



 ガリアの右腕が霞む。


 

 微かな風を切る音。



 王の目が不思議そうに見開かれる。



「あ…。」


 

 そう呟いたのは自分か、あるいは他の誰かか。



 次の瞬間、王の首が宙高く舞った。

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