1-3 朝の集会
「謁見式って緊張するな…王様でしょ?失礼があったら怒って投獄とかないかな…。」
「流石にないでしょ…ここの王様優しいらしいじゃん。」
教会共用の食堂で朝食を取りながらの軽い雑談。それ自体が不敬と取れなくもない頭の悪い会話と、後ろに控えた侍女さん達の苦笑するような目線。朝食、夕食の時は同じ机で食べながら情報交換兼雑談に花を咲かせるのが最近の慣わしになっている。
「今日一日中王都なんだろ…?剣振りたかったな…。」
そうボヤくのは吉田栄一、改めジオ。運動神経がよく顔も広かった所謂"陽キャ"枠であった彼はこちらへ来てからもムードメーカーとして一役買っている。どうやら剣術が気に入ったようで剣の稽古では人一倍張り切り、今やレイと手合わせすれば十の内八は勝てる程である。しかし勉強分野に関しては傍付きの従者さんがレイに愚痴りに来るほどの有様だ、
「ん…私も魔法練習したい。」
ジオとは対極的な声でそう呟いたのは平川凛、改めユノ。以前から物静かな性格であったが、魔法の訓練で初めて初歩の消しゴムほどの大きさの火の玉の作成に成功してからはめっぽう魔法に打ち込んでいる。ちなみにそのとき見せた欲しいおもちゃを貰った子供のような満面の笑みは男女問わず見とれるほどであった。普段静かな故のギャップ萌えというやつか。
「一日中お偉いさんの前っていうのも辛いよね〜授業参観的な…?」
若干的外れな例えをあげるのは青山祥子、改めトウカ。初日には容赦なく委員長に噛み付いていたため密かに恐れていたが、普段からそうという訳ではなく明るいお姉さんといった感じだったので胸を密かに撫で下ろしている。剣術の中でも短剣を使った斥候的な動きに興味があるあるらしく、運動神経の高さも相まって忍者的な立ち回りを好んでいる。
「じゃあお行儀良くしてれば怒られない…かな?」
これまた少々抜けた発言の主は細田奈々、改めレーナ。柔和な性格をしていた彼女は召喚に一番ショックを受けた一人でもある。しかし周りの励ましもあり少しずつ元気を取り戻し、神聖術の治癒術を見てからはそれに注力入れて訓練している。また、少女天然であることが発覚していじられていたりする。
「皆さんそろそろ時間ですので準備してくださいね。」
「やっべ俺まだスープ飲んでない!」
侍女さんの催促に慌てるジオにじっとりとした視線を浴びせながらレイは考える。
他のみんなはこの異世界でもたくましくやりたいことを見つけ、打ち込んでいる。
しかし自分はどうか。剣も魔法も楽しいものではあったが、全力で極めたいとは思えていない。事実、レイは他のみんなと比べ平均的にはそこそこ高い水準で剣や魔法を扱えるが、それぞれの得意分野に関しては1歩も2歩も遅れている。
この世界に来る前からもそうだ。一芸を極めるでもなく、時間の無駄を自覚して流れる時間をドブに捨てていく。それらの時間をかき集めればテストで学年一位になることも、都大会に出ることもできたであろうに。
レイは自分のことが好きか嫌いか、と聞かれたら迷わず嫌いと答える人間だった。
おれは、また、ここでもーー
「レイ様?」
思考を遮る、どこか不安げな声。
「どこか具合が悪いところでもありますか?」
「ああ…大丈夫。考え事してた。」
朝のことと言い、ミアさんの洞察力には目を見張るばかりだ。苦笑と共に肩をすくめる。
「そうですか…でも、無理はしないでくださいね。」
優しい笑顔と共にそう言われる。これほどに優しい笑みをレイは見たことは無かった。
「それでは行きましょうか。」
最後に水を一気飲みしてどこか締まらない思考を無理やり止め、すでに歩き始めていた4人の背を追う。
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