第6話 他界前のQ.E.D.

 近藤

 

 おう。タケか。元気か。

 

 自分のこと、心配しろ。


 わかってるさ。さっき砂川が来た。めっちゃ謝ってきて困ったよ。

 

 そうか。それは大変だったな。

 

 砂川、元気でよかった。


 自分のこと、心配しろ。

 

 わかてっるって。……まぁ、皆が元気ならそれでいいよ。


 悔いはないのか。


 無いさ。妹とは、思う存分競えたし。何より、またやろうと思わせてくれた砂川に出会って。


 お前はとことん人好きだな。中学の頃から変わってない。


 そんなすぐに、人が変わるかよ。


 ……


 ……


 それに、タケと出会えたことが何よりも良かった。俺をもう一度、陸上に戻してくれた。


 僕は……何もしてない。


 照れんなよ。心底嬉しいくせに。もっと、素直になったら女子にも好かれんのにな。


 それはいいよ。


 お前は人間に興味が無いが故に、魅力的に映ってしまうのかもな。


 どういう意味だよ、それ。


 そのままさ。……タケ。


 ん?


 手を、握ってくれ。


 どうしたんだ?寒いか。


 すまない。多分……


 そうか……


 元気でな……タケ……


 ……


 黙って見つめていた横顔は、自然と目は閉じられ、握っていた手の温もりはもう通っておらず脱力していた。

 タケは時計を見つめ、ナースコールのボタンを押した。

 しばらくして「どうなさいました?」。

 「近藤君が先程、他界しました。

 時刻は6時16分です。」

 

 後日、タケは近藤の訃報をゆうき、梅澤、砂川、それと時雨に伝えた。

 タケの表情はいつもと変わらない。


 僕たちはいつだって青春犯罪者。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青春犯罪小説 辛口聖希 @wordword

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ