青春犯罪小説

辛口聖希

第1話 教室

 晴れた空の下、一つの学校が白い肌をてからせていた。その中に一人の男子高校生がいた。

 男子高校生は授業中にも関わらず、スマホから伸びたイヤホンを耳に突っ込み音楽を聴いていた。しかし、席は一番後ろの最も左であるため、教師もクラスメートも彼をとがめたりしなかった。

 「タケ、最近、近藤がいじめを受けてるらしいぞ。」

 タケと呼ばれた男はイヤホンを外す。

 「何の話?」

 目の前に座っている男は、身体ごとタケの方へと向けていた。

 「だから、近藤がいじめを受けてるって」

 「それがなんだ。典型だろ」

 「典型?」

 「好きか、嫌いか。興味があるのか、潰したいのか。まぁ、そんなとこだろ。」

 「どこが典型なんだ?」

 「まぁ、子供じみたところだ。何かあるなら直接聞くか、行動力のないことを自覚して諦めるか懸命なのはそのどちらかだろう。」

 そんなものか。男は首をひねった。

 「ゆうき君。それ、あまり声に出して言わない方が……」

 タケの隣にいる女がゆうきと呼ばれる男に言う。

 「ん?何で?」

 「聞いた話によると、酷いらしいよ。それを理由に今日休んでるって話だし。私たちまで、便乗して騒ぎ立てることないよ」

 女は潜めて言った。

 タケは一つため息をつく。

 「そんなの俺と、どう関係しているんだ?」

 「そんな冷たいこと言う?」

 女はタケを鋭く捉えた。

 「は?」

 タケは冷淡な目で返した。

 「人がいじめられてるのに、なんで他人事みたいに言うの?せめて、何かできることをやろうよ」

 「それで、何が変わる?他人の心か?このクラスの和か?それとも、その近藤とかいう奴自身がか?どれだ?」

 タケは語気を強めて言った。

 「そんなにいう必要ないんじゃない?何かできることをやろうって言ってるのに、何か変えようとか、そういう話じゃないじゃん。」

 「じゃ、お前に何が出来る」

 タケは机に肘をついた。

 不敵な笑みが女を見る。

 「それは……」

 「なら、なんで嫌がらせを受けてるか、3人で探ればいいんじゃない?」

 ゆうきが提案した。

 少し考えた女が、

 「うん。やってみようよ。何か出来ること。」

 「タケはもちろん……」

 「却下」

 「なんで」

 女の椅子が傾いた。

 「面倒だ。本が読みたい。」

 「なら、本で鍛えたその頭で出来ることしようよ。」

 「何時の間に事件になってるんだ。勝手に」

 椅子がずらされる音が響く。

 女は黙ってタケを見ている。ゆうきは黙って2人を見ていた。

 「何?」

 肘をついたタケは目の色を変えずに女に尋ねる。

 女は答えず静かに息をしている。口は結ばれていた。

 「本、買ってあげるから」

 女は言った。

 「もので釣る気か。」

 「1冊で不満なら、2冊でも、3冊でも。」

 「いやぁ……でも、面倒だな……」

 「じゃ、5冊。」

 タケは目の色を少し変えた。そして、黒目を少し動かして、しばらくして首を折る。

 「……わかった、やるよ。」

 「決まり」

 女は身体と椅子を元の位置に戻した。

 「タケ、お小遣いないもんな……。

 というか、なんで梅澤はタケがお金ない事知ってるんだ?」

 「いつも、言ってるじゃん。」

 という風に走り出した3人。

 この物語はタケ、ゆうき、梅澤たちの青春の、ちょっとした1コマ。

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