第3話 連帯感の強い3人
翌日に3人は主犯の取り巻きと会っていた。
時刻は日が傾きつつある放課後で、4時だ。
ある教室内には、タケ、ゆうき、梅澤が黒板に向かって、3人の男と向かっていた。
連帯感の強そうな男らは露骨に嫌な顔をしている。
「何だよ。話って」
真ん中の男は威厳を持たせた風に切り出した。
「俺たちも暇じゃないんだ。」
向かって左の男はかぶせるように言う。右の男は黙っていた。
「そんな時間は取らせない。端的に言って、何で……えっと、何だっけ?」
後ろの2人に、タケは確認をとる。
近藤。
ゆうきと梅澤の声が揃う。
「そう、近藤君。何で、いじめているの?」
「何で?」
男たちは顔を見合わせた。
騒ぎ立てるかと思えば、3人は鋭い眼光をタケに向けた。
「教える必要ある?」
「知って、どうする?」
依然、右の男は黙っている。
「いや、どうとかそういう話じゃない。只、近藤君に何かできることはないかって、後ろの2人がうるさくてね。それで、順々に聞いてるんだ。関係してそうな奴らに。」
男2人はタケ越しに後ろのゆうき、梅澤を見る。
「だったら、なんであの2人がしゃべらねぇんだよ。」
真ん中の男は顎で2人を示す。
「あいにく、2人は怖いんだってさ。君たちとしゃべるのが。」
タケは出鱈目を言った。ゆうきと梅澤はタケの肩に手を掛ける。
「2人して、そうされると、どちら回りに回ればいいんだい?」
結局、右回りになった。
「そんなこといってないけど。」
「タケ、適当なこと言うな。」
静かなる怒号がタケに向かって飛び交っていた。
タケは笑っていた。
「何がおかしいの?」「タケ、おかしいことじゃないぞ。」
2人は同時に口を開けた。
「おい!」
置き去りにされている男が声を荒げる。
タケは黙って前を向く。
「怖いんだったら、探らない方がいいぞ。」
強めた声色で真ん中の男が言った。
「無理矢理な言い方だけど、僕だったら、いいよね?」
だって、僕は君たちを怖いとは思ってない。
タケが言ったとき何故か右の男の口が少し動いた。
「教えてよ。加害者の名前はまだ知らないけど、多分、君たちと仲の良い友達だよね?きっといじめようと切り出したのも、君たちだろう?」
「お前、いい加減にしろよ。」
右の男が口を開いた。
「お前、人の心に土足に入ってくるなよ。」
「突然だな。しかし、入ってすらもないと思うけど。」
「どんな訳があるのか知らないくせに、興味本位で探ってくるな。嫌な思いするのがわからないのかよ。」
「だけど、君たち以上に近藤君は嫌な思いをしているよ?」
右の男は再び口を噤んだ。
「君たちが嫌な思いをしたんなら申し訳ない。しかし、それはいじめをしている理由には到底成り得ない。ちゃんとした理由が欲しい。」
しばらく黙っていた右の男は言葉を選んでいた。
「お前等にマサトのことを話したくない。」
「あ、そう。なら、探し出して、そのマサトくんとやらに直接聞いてみることにするよ。」
「だから、いい加減にしろよ!」
「だから、いい加減って何さ?」
「どこまで、人のこと嗅ぎ回ったら気が済むんだ!あいつはあいつなりに悩みを解決したかっただけなんだよ!事情も知らないくせに外からうるさいんだよ!」
しかし、タケは冷静に答える。
「だからと言って、人を苛めて良い理由にはならない。」
タケは右の男を見据えた。
「事情を知らないのは、まぁ、どうでもいいけど、それが近藤君を傷つける理由だとすれば、僕が近藤の気持ちを代弁して、君たちをいじめて傷つけてもいい訳だよね?」
それまで、右の男とタケの独壇場であったが、タケは残された2人にも目を配った。
「おかしくないよね?」
ねぇ。と念押したタケに答える人間はいなかった。
「どうしてかな?なんでいじめるの?」
真ん中の男にタケは聞いた。
「俺は……」男は視線を外した。
「どうしてかな?」
続いて左の男へと目を向ける。男は黙って視線を動かした。
「知るかよ。そんなの。」
男は吐き捨てた。タケは無視したまま、目を移す。
「どうして?君は知ってそうだね?」
最後は右の男に。
しばらく、視線を落として考えた男は、やがて、落ち着いた眼でタケの目を見た。
「どうせ聞くんだろ?本人に。」
「ああ、そのうちね。」
小さくうなって、男は口を開いた。
「あいつは陸上部なんだ。努力して、頑張って、やっと成果を出せるようなタイプで、人一倍練習してたんだ。
毎日、かかさず走り込んでカメラで自分の姿をカメラを撮って、フォームの間違いとか直したりして、技術を高めてたんだ。
……そんな中、部員に誘われて、近藤が入って来たんだ。入って来たのは良かったんだ。近藤はあいつとしゃべらなかったし、気に障ることもしてなかった。
だけど、ある試合で……近藤は大して練習もしてなくて、優勝したそうだ。
そこで、マサトの感情を逆なでしたんだ。自分はあんなに練習していたのに、4位だったと。
そこから、近藤のことが気に食わなくなり、俺に近藤に対しての悪口が多くなった。
……ははは、今、冷静になって思ったが、もしかしたら奴は経験者で、ちょっとの間、やってなかっただけかもしれない。さっき、お前が事情も知らず、わめいていたのと同じだな。おかしいな。苛めている奴等に欠点があるとか」
「まぁ、それはどうでもいいけど。苛めている時点で、それは人間として欠陥だ。君たちは手を貸しただけだとは言え、人間としては底辺だ。」
しばらく、沈黙が降りかかる。
「ありがとう。知りたいことは大体知れたから。君たちは手を貸した、それだけだよ。後は本人だよ。」
タケは3人に背を向ける。
「いいの?これで」
腑に落ちない梅澤が、歩くタケを遮る。
うつむいたタケは顔を上げる。
「ああ」
「なんか、違うくない?ほら……何ていうの……?」
「勉強できる君には珍しいね。言葉が出てこないなんて。」
静かなる教室に2人の声が響く。
皆、黙って2人を見ている中、ゆうき1人は神妙な顔つきであった。しかし、ゆうきも黙っていた。
「別に腑に落ちなくていいじゃないか。目的はいじめをやめさせることだろう?」
梅澤は微妙に頷く。
「自分たちの愚かさをわかってくれたんじゃないか?結果的に、昨日の奴らも、今日の奴らも苛めはやらないだろう。」
タケは3人の男を盗み見る。
さっきの話を受けてか、右の男が2人の男に本当の話を伝えているようだった。
「これ以上、踏み込む気はないよ。答えは得たから。」
「答えって?」
ゆうきはとぼけて言った。
「彼らは手を貸した。それだけだ。」
タケはゆうき、梅澤の横を通り過ぎる。
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