第2話 馬鹿な取り巻き
「なぁ、なんで近藤をいじめてるの?」
タケは親しいような、でも冷たいような言い方で騒がしくしている男に声を掛けた。
男はやかましく開けているその口を閉じ、タケに睨みを利かせた。
「あぁ?何?悪いの?」
「いや、悪いとは言っていない。理由を聞きたいだけさ。」
タケは努めて穏やかに言う。
「理由?」
ある訳ないだろう。男は軽く告げた。
ほう。タケは嘆息と共に返事をしてみせた。軽蔑しきったその目は容赦なく男へと注がれる。男は何も感づいていない。
「ない?じゃ、やる必要ないんじゃないかな?」
「必要がないと、やっちゃ駄目なのか?」
「答えになってないけど。」
「うるさいなぁ……!必要?そんなもの求めてねぇーよ!こっちは楽しいからやってんだよ!」
大声を上げた男は4人の取り巻きとタケをあざ笑った。
「お前、考え過ぎなんだよ!直感で生きようぜ!」
「そうだ!そんなこと考えるだけ時間の無駄じゃん!俺らが楽しかったらいいんだよ!」
続けさまに2人がタケを煽った。
「いくらなんでも、これはまずいんじゃ……」
5人が嘲笑している前に冷たく立っているタケの後ろで、ゆうきが梅澤に耳打ちする。
「そうだね……」
梅澤は女子と周りの目線を気にしながら、横目にタケを見た。
「楽しいからか……?ほう?じゃ、俺がお前らを苛めたとして、その理由が楽しから、という理由だったら納得できるのか?」
タケは冷たく質問した。
「そんなのお前になんかできるわけねぇーよ」
ゆうきはタケの後ろから嫌な予感を汲み取った。背筋が嫌に伸び微動だにしていない。横に回って見れば、瞬き一つさえしていなかった。
「タケ、そろそろ止した方が……」
言い掛けたとき、タケは手直にあったシャープペンシルを掴み上げ、勢いつけ目の前の男に刺そうとした。
「タケ、よせ!」
「タケくん、よして!」
タケはペンシルの先を男の眼球の目前で止めていた。数ミリ動けば網膜に触れそうであった。
「大丈夫。殺したりはしない。味わってほしいだけさ。」
タケは不敵に笑みを作った。
「じゃ、今、お前の目が刺されたとき、楽しかったと僕が言ったとき、お前は許せるか?納得できるか。お前は彼にしていることを理由なんてないって言ってたよな。自分だけが楽しければいいと。だったら、俺が快楽目的にお前の目を抉りだしても文句の一つ言えないってことだよね?」
タケは半ば高揚しながらも、諭すように言い方だった。
男は口をぽかんと開けている。
「なんか、しゃべれよ。」
語気を荒げたタケは吐き捨てた。ペンシルの先は1ミリも動いてはいなかった。
「……」「……」「……」「……」「……」
刺されようとした当事者含め周りの取り巻きはタケの行動に腰を抜かしていた。皆、首の関節が固まっているようだ。
ゆうきと梅澤も唖然とその状況を網膜に映しているだけだった。
「な~んだ。つまらん連中だな。哲学がないなんて……」
タケはシャープペンシルをてきとうの位置に静かに置いた。今まで止まっていた身体が軽く動いた。
「タケくん……」
梅澤は固まった目でタケを捉えた。
「幾らなんでも、やりすぎだ……タケ」
ゆうきは少し怖気づいて言った。
「デビューを飾るには、これくらいがいい。」
タケは時計に目をやった。
「早く準備した方がいい。」
針は授業開始の2分前であった。
静まり返っていた教室は、いつもの騒がしい活気に戻っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます