一滴の水まで鮮明な美しい描写

水の中で泳ぐ主人公達の描写が、まず何より素晴らしい。
水の一滴まで読者に体感させるほどにリアルで繊細で丁寧な描写は、文字から体験となって押し寄せて来る。
水の圧力、水を掻き分ける抵抗、跳ねる滴の煌めき、海の潮騒が耳に打ち付ける静寂、泳いだことがない読者がいたとしても、水の中に入った印象を鮮烈にイメージできるのではないだろうかと思う。

描写そのものが芸術のような美しさをもって読む価値を魅せながら、それで描かれるストーリーも深みがあって読み耽ってしまう。
彼女の話を全く聞かない彼氏が、勝手にデートの行き先を決めて先に行動してしまう。彼女はお構い無しなのだけど、どこか彼女への愛を感じさせる。理屈ではなく、感覚がわたしに彼氏の強い愛情を納得させた。
そしてその行動が、結末で全て意味付けられる。幻想的なタイトルもまた、結末において現実的な要素として、この作品に掲げるのに相応しいのだと思い知らされる。

作品の全てが調和して美しい素晴らしい傑作だと伝えたい。