第7話 勇者、爆誕します☆

「じゃあ、そろそろ行こうか…魔王。」

「ん、そうだな。」


立ち上がると魔王を見上げる。私が小柄なせいもあるが、魔王…結構な長身だ。戦っている時には余り気にならなかったけど…


「身長も弄れば良かった。」

「?」


呟いた言葉に小首を傾げた魔王に苦笑する。


『ところで、君達いつまでその名前で呼び合うの?(´・ω・`)? 』

「名前?」

『君達、もう勇者でも魔王でもないんだョ?』

「「あー…」」


そう言われてやっと気がついた。

魔王もそうなのか、声が被った。


「なんか、この世界に来てから名前を呼ばれた覚えが殆ど無いなぁ…」


思い返せば、勇者としか呼ばれてない…あれ?なんか泣きたくなってきた。


「復活したら、先ずは自己紹介から…か?」


私の頭を撫でながら魔王は言う。なんか、魔王は私の頭を撫でるのが好きなんだろうか?半眼で見上げるも、イケメンスマイルで返された。


「そうだね。」


ここで神様にニヤニヤされながら自己紹介とか、お見合いみたいでなんか嫌だし。


「じゃあ、行くね…神様。」

『次は死に戻りしないようにね(o≧▽゜)b』

「止めて、変なフラグ立てないで!」


身を震わせながら言ってウィンドウをバシバシ叩いた。


「………ねぇ、神様。」

『('_'?)』

「私は…ちゃんと、勇者やれてた…?」


期待を裏切った…こんな風に、ここに戻りたくなかった。そう、思ってた…。神様に会うのは、きっとこれが最後だ…だから、どうしても問いたくなった。


『なんだ、そんな事?言ったじゃないか、流石僕の選んだ勇者だって(´д`)―З』

「でも…」

『世界中引っ掻き回して、これからも僕を存分に楽しませてよね♪ヽ(´▽`)/』

「……うん。」


こくりと頷く。なんか、泣きそうだ。


『君ぃ、ちゃんと僕の勇者守ってよ?o(`^´*)』


その為にオマケしてあげたんだからね、と魔王に神様が言う。


「心得た。」


あれ?魔王はボディーガード扱いなの?神様?


『じゃあ、行ってらっしゃい…夜宵。』

「行ってきます、神様。」


私は笑顔で神様に手を振った。













「爆☆誕!!」


がばっと起き上がって叫んだ。


「ばくたん?」


くくっと笑いながら鸚鵡返しに問う声が階上から聞こえた。視線を向けると、崩れかけた玉座を背に最上段に魔王が座って笑っていた。


「爆発的に誕生したってこと!」


ドヤ顔で答えると、そうか、と楽しそうに返された。


「ところで、それは抜かないのか。」

「ん?」


指されて背を見ると、まだ2本の長剣が身体を貫いたままだった。


「おぅ!?」


立ち上がって剣に手を伸ばすが、身体に垂直に突き刺さってる上に私が扱うには長いものなので…


「…くっ!と・ど・か・な・いーっ!」

「少し待て。」


苦笑した魔王が階を降りてきて、四苦八苦している私の後ろに回る。


「痛くはないのか?」

「あんまり。魔力を吸われて痺れる感じはあるけど。」


2本の内、1本は魔力喰いの魔剣だ。現在進行形でちゅーちゅー魔力を奪われ続けているのだ。

えぇい!忌まわしい!


「抜くぞ。」

「んー…」


ずっ…と微かな音を立て、2本の剣が一気に引き抜かれた。肉を抉る微かな痛みと同時に、皮膚が引き攣る様な感覚があった。胸元を見遣ると、血の痕だけを残して傷は綺麗に消えていた。


「流石…自己治癒力も半端無いね。」

「その様だな。」


魔王が背中をつぅっと指で撫でる。


「ひゃっ!」


くすぐったさに声を上げると、ぱっと魔王の手が離れた。


「あー、びっくりした。」


背中弱いんだから止めてよねーっ!

って、振り返ったら魔王が明後日の方向を見ていた。目元が僅かに赤い…また、ツボに嵌まってる?首を傾げながら辺りを見渡して、2本分の鞘を見付けると拾い上げる。


「魔王、剣頂戴。」

「ぁ、あぁ。」


二振りの長剣を受け取って鞘へと納めて、じっと眺める。


「返しに行かないとなぁ…」

「人間のものではないのか?」

「うん、どっちも他国で封印されてたものだから…」


どうやって持ち出したんだか。

溜め息をついてイベントリへと投げ入れる。


「……さて、じゃあ自己紹介と行きますか。」

「ん」


にっこり笑って振り返ると、魔王も笑みを返してくれた。


詩月 夜宵うたつき やよいです。私の世界の字で夜の始めに月を詩うって書くの」

「ふむ…ヤヨイ、で良いか?」

「うん。」

「私は、ルークス・ソル・サンクトゥスと言う。」


名前を聞いて私は苦笑した。魔王名前は、光…神聖な太陽の光と言う意味なのだ。


「私達、役割と名前が逆だったんだね。」

「その様だな。」


魔王…ルークスも可笑しそうに笑う。


「ルークス…ルーって呼んでも良い?」

「あぁ、構わない。」


私が手を差し出すと、ルーが目を細めて手を握ってくれた。


「これからよろしくね!」


私達はがっちりと握手を交わした。

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