第8話 勇者、呼び出しに怯えています。
復活してから半日が経ちました。
正確には、復活して目を覚ましたのが真夜中だったので夜が明けた、というのが正しい。そして、もうひとつ。星を見た結果、死んでからなんと1ヶ月程経ってました。魂と現実の時間は流れが違うことを2人で実感しました。
で、現在何を行ってるかと言うと…城内と城外を巡って遺体を光の魔法で浄化しています。
魔族と言うものは、生物が瘴気を浴びすぎて魔へ堕ちる事で出現したと言われており、元となった生物の強さと瘴気の濃さでその強さが変わるらしい。そして、魔族同士で交わることで更に強い個体が生まれる。区分としては、魔獣、魔精霊、魔人と大まかに分けられる。弱いものは自我を持たず、飢餓感と破壊衝動に支配されて居るが、高位の魔族ともなれば力も知識も桁違いである。一般的に魔族と呼ばれるのは、この高位魔族とその統率下に置かれたものを指し、それ以外は魔物と呼ばれることが多い。
因みに…この瘴気と言うものは、世界各地に多かれ少なかれ存在し、国が荒れたりすると途端に魔物の出現率は跳ね上がる。そして、これを浄化するのに有効なのが光属性の魔法と幾つかの精霊魔法である。
「何だか…酷く複雑な気分…」
自らが倒した者達を自ら浄化しているのだ。
「…戦争だからな…」
ルークスが傍らで静かに言って、光となって消えていく部下を見つめていた。その姿が哀しげで、思わず彼の手に触れた。
「どうした?」
「……何でもない」
ルークスの長い髪を冷たい風が揺らした。謝ったところでどうにもできないし、ルークスもそれを望んでいない気がして首を振った。そうして話を切り替えるように言葉を紡ぐ。
「髪、結構色変わったね。」
以前は夜の闇の様な黒だった髪は深い青銀色へ、瞳は黄昏の空の様な濃紫からオレンジへと色合いを変えるアメトリンの瞳へと変わっていた。角は色も形も変わっていないが、額に小さめの角がもう1本生えている。
「それを言うなら夜宵の方だろう?」
「まぁ、ねぇ…」
自分の髪を一房摘まんで見遣る。本当に誰だって思うくらいの変身具合だった。元々色素の薄かった亜麻色の髪は白に近いプラチナになり、肩を過ぎた位だった長さも、今は膝位まで伸びて緩くウェーブを描いている。瞳はルークスとは逆に、朝焼けの様な淡い薔薇色から淡いオレンジへと変わるインペリアルトパーズ。額と、こめかみ辺りから旋毛に向かって伸びた短めの角は透明で、中にオーロラのラメを混ぜたかの様に、陽の光を反射してキラキラとしていた。耳はエルフの様に長く伸び、日焼けした肌はすっかり健康的なミルク色へと変わっていた。
「そんなに変わらないかなぁって思ってたんだけどなぁ。」
半壊した城外へ出る扉を潜って、ぐっと伸びをしながら言う。
「とりあえず、この髪の長さは何とかしなくちゃ。」
「切るのか?」
勿体ない、とルークスは顔をしかめる。
「だって…」
「結えば良いだろう?」
「むー…だって苦手だもん…」
そういった女子力は期待しないで欲しい。
「さて、ここで最後かな。」
城を出てすぐの広場は、もっとも戦いが激しかった場所だ。折り重なるように倒れる兵士たちの中で、ただ1人立ったままで事切れていたのは、赤銅色の髪をした騎士。黒鉄の大剣に焔を纏わせて挑んできた魔族だった。
「凄く、強かったな…あの人。」
それから…視線を扉の脇に向ける。壁に背を預け、杖を握りしめたままの銀髪の魔法使い。嫌味なほどに多種多様な魔法を使い分け、騎士を、兵士を鼓舞しながら戦い続けた魔族…今まで出会ったどんな魔法使いよりも凄かった。
「勇者にそこまで讃えられれば悔いも無いだろう。」
ルークスが静かに笑った。2人はルークスの腹心の部下だったと言う。
「なら、丁重に送らなきゃね。」
にっこりと笑って胸の前で手を組む。光魔法、最大の浄化魔法は歌である。本来は複数人で歌うものだが…今回は赦して欲しい。
冷たい空気を肺一杯に吸い込んで音を紡いだ。音が光の波紋となって広がっていく。
1人、また1人光になって、最後には騎士と魔法使いが光となり、渦を巻いて空へと昇っていった。
後には戦いの痕と突き刺された黒鉄の大剣と杖と…2人分の角が遺された。稀に身体の一部がこうして残ったりすることがある。そこに魂が宿ると言うが、真偽のほどは分からない。
大事そうにそれらを拾い上げ、イベントリへと入れるルークスを見て、やっと一区切りついた気持ちになった。
「夜宵」
「うん?」
私を見たルークスの視線が私の手元へと落ちる。
「昨夜から気になっていたのだが…その腕輪、通信用の魔道具の様なものだろう?光っているが、良いのか?」
ピシリ、と表情が固まる。
「夜宵?」
ハッキリ言おう…今までの全部が現実逃避した結果の行動です!私は、応答したくないんです!!
「う"ー…嫌だ、絶対嫌だ。」
頭を抱えてしゃがみこむ。この腕輪はある人専用の通信具である。昨夜、つまり復活してからずぅーーーっと光続けている。ということは、死んで…生き返ったことを感知したからに他ならない。出ない…という選択肢はない、先延ばしにしてもその選択肢は絶対に出来ないのだ。心配されてるから、というのもあるが…確実に会いに行かなくてはならない人物だからでもある。
「延ばせば延ばしただけ追い込まれるぞ。」
髪を梳く様に撫でられながら諭される。
「……後で後悔しても知らないから」
涙目で見上げるも、大丈夫だとでも言うように微笑まれる。本当に知らないから…内心で呟いて立ち上がり、キラキラと光る腕輪の紋様を撫でた。
『……や~よ~い~っ!!!』
地の底から響くような声がした。
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