閑話 世界中が勇者と魔王の死を知りました。

魔王、並びに魔族の殆どが勇者によって倒された。その一報は、未だ魔王領に居る一行から通信用魔道具で各国へと知らされた。


同時に…勇者たる異世界から喚ばれた少女が、その命を散らしてそれを成したことも。



「まさか、彼女が…」


歓喜の声を上げる臣下達や民達の声を聞きながら、竜王国アストルムの王は哀しみに歪んだ顔を片手で覆った。


まだ、幼さを残す笑顔が記憶に新しい。


怖いと、言っていたのに。どれ程力があっても、命を奪うのは怖いと…そう、困ったように、泣きそうな顔で笑っていたのに。


「ゼノを呼んできてくれ。」


顔を覆う手をそのままに側に居た者に声を掛ける。暫くして、1人の男が執務室に入ってきた。暗緑色の髪にガーネットのような赤褐色の瞳のその男は、扉を閉めると最上級の敬礼をした。


「お呼びでしょうか、陛下」

「仕事だ」


感情は引っ込めて男…ゼノを見遣る。


「此度は何処へ?」

「アルビオンだ」


そう言うと、ゼノはあからさまに顔をしかめた。


「…人間の国、ですか。」


何故、とゼノの瞳が嫌悪感を滲ませて問うてくる。


「…夜宵が死んだ。」

「…っ、そんな……そんな馬鹿な!」


ゼノが動揺を隠しきれずに叫ぶ。民には勿論、臣下も一部の者しか勇者が死んだことは知らない。


「俺も…信じたくはない。」


だから、確認して来て欲しい。


「真実ならそれでいい。」


彼女の死が真実か、否か。

その裏に何もないのか。


「出来るだけ早く、頼む。」


それほど長く隠してはおけない。交易の拠点たるアストルムだ、1週間もすれば情報が回る。この国は、アルビオン帝国にはかなり否定的だったが、彼女には好意的だ。追悼式を、と少なくとも彼女に関わった臣下から声が上がるだろう。


「……ご命令、承りました。」


ゼノは深々と腰を折って礼をすると退出していった。入れ替わりに細かい銀細工のモノクルを掛けた男が入ってきた。


「クラヴィスか。」

「各国に…召集をお掛けに?」

「よく解っているな…」


苦笑しながら羊皮紙にペンを走らせる。3通を書き終え、蝋封をする。


「ラウルス、サフィラス、カエレスエィスに。」

「畏まりました。」


3通の親書を受けとると、クラヴィスも退出していった。椅子に身体を沈めて深々と息を吐く。

アルビオンの今後の出方を考えなければならない…この後、休む暇も無い位忙しくなる。


だから、今ただ…あの小さな友人の死を、哀しんで居たかった。


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