第38話

「助けてあげる。

 私の命をあげる。

 だから諦めないで!

 幸せになるのよ、オリヴィア」


 エイダは命そのものを燃やした。

 開花した聖女の力を使い、命を聖なる力に変化させ、怨念を浄化しようとした。

 シャアは一瞬で全ての状況を判断して、エイダを優先した。

 エイダとバートに恨まれるのを覚悟で、生命力の過半を聖剣に込めて、巨大怨魔獣の急所を斬り裂いた。


 一瞬遅れて、クロードも生命力の過半を聖槍に込めて、巨大怨魔獣の急所を突き破った。

 エミリーとアメリアは放った治癒魔法が、エイダを回復させた。

 バートが巨大怨魔獣の爪撃を受け吹き飛ばされるも、シャアとクロードの攻撃で勢いが弱められていた上に、聖鎧の防御力で何とか致命傷を受けずに済んだ。


「おんぎゃぁ。

 おんぎゃぁ。

 おんぎゃぁ」


 シャアの眼に、幼気な赤子を抱くエイダが映った。

 ほんの一瞬、普段は表情を変えないシャアの顔に、心からの笑みが浮かんだ。

 破顔一笑、すぐさま表情を引き締めたシャアは、巨大怨魔獣に次の一撃を放った。

 シャアの笑みを見たのはエミリーだけだった。

 妹のエミリーだけが、復讐と王家再興に囚われる兄の心の奥底に、真心があるのを知っていた。


 シャアに続いてクロードも突きを放った。

 エイダの命懸けの聖魔法が、全ての怨念を浄化していた。

 巨大怨魔獣もシャアに続いたクロードの攻撃で全ての命を削られ、その場に巨大な体を横たえた。


「おんぎゃぁ。

 おんぎゃぁ。

 おんぎゃぁ」


「おお、オリヴィア。

 オリヴィアなのね?

 生まれ変わったのね」


 エイダが赤子を抱いて話しかけている。


「すまん、オリヴィア。

 こんな姿にしてしまって、すまん」


 バートが赤子に詫びていた。

 元の姿のまま助けられなかった事を、心から詫びていた。

 自分の力不足に忸怩たる思いだった。


「これでよかったのかもしれない。

 元の姿では、この国で生きるのは厳しい。

 哀しい記憶が残っているかどうかは分からないが、全ての復讐を成し遂げたオリヴィアなら、赤子からやり直す方が幸せかもしれない」


「私が育てます。

 今度こそオリヴィアを護ります。

 オリヴィアを傷つけようとする者は、情け容赦なくぶち殺します」


 愛おしそうにオリヴィアを抱くエイダだが、口にする言葉は過激だった。


「そう気負わなくてもいいのではないか。

 父上と母上をこの国に呼んで、バートも一緒に、今度こそ家族で幸せを掴めばいいのではないか。

 俺も手伝うよ」


 そう言うシャアは、新たな決意と想いを込めてエイダに微笑みかけた。

 国土だけではなく、人心まで荒廃した母国を立て直すのは苦難の道だろう。

 想い人にも苦労を掛けるだろう。

 想いを受け入れてもらえるかもわからない。

 だが少なくとも、幼気な赤子が幸せに暮らせる国にすると誓った。


 シャアとエイダの恋物語と子育ては別の機会に。

 

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聖女は教会に裏切られ、王子達に輪姦され、奈落の底に落とされました。 克全 @dokatu

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